更新料に関する最高裁平成23年7月15日判決

 建物賃貸借契約の更新の際に賃借人が賃貸人に更新料を支払う旨の条項(更新料条項)が消費者契約法10条により無効になるか否かが争われていたところ、最高裁平成23年7月15日判決が判断していますのでご紹介します。

最高裁平成23年7月15日判決

事案の概要

(1) 賃借人Xは、平成15年4月1日、賃貸人Yとの間で、京都市内の共同住宅の一室(本件建物)につき、期間を同日から平成16年3月31日まで、賃料を月額3万8000円、更新料を賃料の2か月分とする賃貸借契約を締結し、平成15年4月1日、本件建物の引渡しを受けた。 本件賃貸借契約は消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。

(2) 賃貸借契約書には、賃借人Xは、本件賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、賃貸人Yに対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない旨の条項(更新料条項)がある。

(3) 賃借人Xは、賃貸人Yとの間で、平成16年から平成18年までの毎年2月ころ、3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし、その都度、賃貸人Yに対し、更新料として7万6000円を支払った。

(4) 賃借人Xが、平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後である平成19年4月1日以降も本件建物の使用を継続したことから、本件賃貸借契約は、同日更に更新されたものとみなされた。その際、賃借人Xは、賃貸人Yに対し、更新料7万6000円の支払をしていない。

(5)  賃借人Xは、更新料条項は消費者契約法10条又は借地借家法30条により無効であると主張して、賃貸人Yに対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料22万8000円及び定額補修分担金12万円の返還を求め、賃貸人Yは、賃借人Xに対し、未払更新料7万6000円の支払を求める反訴を提起した。

原審

 原審は、更新料条項は消費者契約法10条により無効であるとして、賃借人Xの請求を認容すべきものとし、賃貸人Yの請求をいずれも棄却すべきものとした。

最高裁判決

 判決は、次のように判示して更新料条項は有効であるとした。

「(1) 更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照)、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

(2) そこで、更新料条項が、消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。

ア 消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。

イ また、消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。

 更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは、前記(1)に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。

 そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

(3) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、これまで説示したところによれば、本件条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。」

※消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 「民法、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

コメント

 敷引特約が消費者契約法10条により無効となるか否かにつき争われた件において、最高裁平成23年3月24日判決及び最高裁平成23年7月12日は、同条に違反せず有効であると判断しました。

コラム「敷引特約の有効性に関する最判H23.3.24及び最判H23.7.12」参照

 最高裁平成23年7月15日判決は、更新料条項についても消費者契約法10条により無効とはならないと判断したものです。

 いずれも重要な判例ですので十分な理解が必要です。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
「広く、深く」をモットーに研鑽に努めています。インターネット上の法律情報を整理したサイト「法律情報 navi」を運営していますのでご覧ください。

弁護士 中村友彦(なかむらともひこ) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(2012.12 登録、日弁連登録番号:46674)
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