連件申請において後件申請の委任を受けた司法書士の責任に関する最二小判令和2・3・6

最二小判令和236が、連件申請において、後件申請の委任を受けた司法書士の損害賠償義務について判断をしました。

最高裁判例としては初めてのものと思いますのでご紹介します。

最二小判令和236

事案の概要

1 不動産売買契約の流れ

第1売買契約  売主 A(所有名義人)

                        買主 オンライフ合同会社

第2売買契約  売主 オンライフ合同会社

        買主 X

第3売買契約  売主 X

        買主 株式会社アルデプロ

2 所有権移転登記の流れ

前件登記  Aからオンライフへの所有権移転登記

後件登記  オンライフから中間省略登記の方法によるアルデプロへの所有権移転登記

前件申請について申請の権限を有しない者による申請であることが判明した後、後件申請は取り下げられた。

3 損害賠償請求

本件は、Xが、後件申請の委任を受けた司法書士であるY司法書士には、前件申請がその申請人となるべき者による申請であるか否かの調査等をしなかった注意義務違反があると主張して、Y司法書士に対し、不法行為に基づき、3億4800万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた。

原審(東京高裁)

原審は、次のとおり判断して、Xの請求を、Y司法書士に対し3億2400万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

「司法書士に求められる専門性及び使命にも鑑みると、連件申請により申請される登記のうち後の登記の委任を受けた司法書士は、前の登記の申請の却下事由その他申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる事由が明らかになった場合には、前の登記の申請に関する事項も含めて更に調査を行い、登記申請の委任者のみでなく後の登記の実現に重大な利害を有する者に対し、上記事由についての調査結果の説明、当該登記に係る取引の代金決済の中止等の勧告、勧告に応じない場合の辞任の可能性の告知等をすべき注意義務を負っている。本件印鑑証明書につき、その生年の記載が別件印鑑証明書と食い違っており、これらのコピーを取ったところ、そのいずれにおいても「複製」の文字を確認することができなかったこと等の事実は、後件申請との連件申請により申請された前件申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であることを強く疑わせる。また、Y司法書士が前件申請についてC弁護士と直接接触できていないことも、前件申請に問題があることの重大な兆候である。そうすると、後件申請の委任を受けたY司法書士は、後件登記の実現に重大な利害を有するXに対し、上記事実を指摘するにとどまらず、前件申請がその申請人となるべき者による申請であるか否かについて更に調査し、その結果を踏まえて、後件申請が実現されない危険があること等を警告し、後件登記に係る取引の代金決済の中止等を勧告すべき注意義務を負っていたということができ、Y司法書士は上記注意義務を怠ったものとして、Xに対し、不法行為責任を負う。」

最高裁

最高裁は、次のように述べて、原審を破棄し、差し戻した。

⑴ 司法書士法は、登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条)、登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項、73条1項)、司法書士に対し、当該業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条)、登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。

このような司法書士の職責及び職務の性質と、不動産に関する権利の公示と取引の安全を図る不動産登記制度の目的(不動産登記法1条)に照らすと、登記申請等の委任を受けた司法書士は、その委任者との関係において、当該委任に基づき、当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず、当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう、上記の確認等の過程において、当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には、上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。そして、上記措置の要否、合理的な範囲及び程度は、当該委任に係る委任契約の内容に従って定まるものであるが、その解釈に当たっては、委任の経緯、当該登記に係る取引への当該司法書士の関与の有無及び程度、委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度、当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様、上記事由に係る疑いの程度、これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。

しかし、上記義務は、委任契約によって定まるものであるから、委任者以外の第三者との関係で同様の判断をすることはできない。もっとも、上記の司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと、登記申請の委任を受けた司法書士は、委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが当該司法書士に認識可能な場合において、当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは、当該第三者に対しても、上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い、これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。そして、これらの義務の存否、あるいはその範囲及び程度を判断するに当たっても、上記に挙げた諸般の事情を考慮することになるが、特に、疑いの程度や、当該第三者の不動産取引に関する知識や経験の程度、当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人あるいは不動産仲介業者等の関与の有無及び態様等をも十分に検討し、これら諸般の事情を総合考慮して、当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて判断するのが相当である。

⑵ これを本件についてみると、前記事実関係等によれば、Xは、Y司法書士と委任契約は締結しておらず、委任者以外の第三者に該当するものの、Y司法書士が受任した中間省略登記である後件登記の中間者であって、第2売買契約の買主及び第3売買契約の売主として後件登記に係る所有権の移転に重要かつ客観的な利害を有しており、このことがY司法書士にとって認識可能であったことは明らかである。

そして、Y司法書士は、Aの印鑑証明書として提示された2通の書面に記載された生年に食違いがあること等の問題点を認識しており、相応の疑いを有していたものと考えられる。なお、Xがその利益を保護する他の資格者代理人を依頼していたという事情はうかがわれない。

しかし、Y司法書士が委任を受けた当時本件不動産についての一連の売買契約、前件登記及び後件登記の内容等は既に決定されており、Y司法書士は、そもそも前件申請が申請人となるべき者による申請であるか否かについての調査等をする具体的な委任は受けていなかったものである。さらに、前件申請については、資格者代理人であるC弁護士が委任を受けていた上、上記委任に係る本件委任状には、印鑑証明書等の提出により委任者であるAが人違いでないことを証明させた旨の公証人による認証が付されていたのである。しかも、Xは不動産業者である上、その代表者自身がXの依頼した不動産仲介業者であるアーガスの代表者やアルデプロの担当者と共に本件会合に出席し、これらの者と共に印鑑証明書の問題点等を確認していたものであるし、印鑑証明書の食違いはY司法書士が自ら指摘したこともうかがわれる。

そうすると、上記の状況の下、Y司法書士にとって委任者以外の第三者に当たるXとの関係において、Y司法書士に正当に期待されていた役割の内容や関与の程度等の点について検討することなく、上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務があったと直ちにいうことは困難であり、ましてY司法書士において更に積極的に調査した上で代金決済の中止等を勧告する等の注意義務をXに対して負っていたということはできない。したがって、上記の点について十分に審理することなく、直ちにY司法書士に司法書士としての注意義務違反があるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。

草野耕一裁判官の意見

私は多数意見の結論に賛同し、それに至る理由に関しても多数意見とおおむね見解を同じくするものであるが、原判決を破棄してこれを原審に差し戻すことにした趣旨につき思うところを敷衍しておきたい。

1 最初に二つの言葉を定義する。以下において、「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得した専門的知見を有償で提供することによって生計を営んでいる者のことであり、「依頼者」とは職業的専門家と契約を締結して同人から専門的知見を提供する旨の約束を取り付けた者のことである。

職業的専門家は社会にとって有用な存在であり、その有用性は社会の複雑化と社会生活を営む上で必要とされる情報の高度化が進むほど高まるものである。そうである以上、専門的知見を依頼者以外の者に対して提供することを怠ったことを理由として職業的専門家が法的責任を負うことは特段の事情がない限り否定されてしかるべきである。なぜなら、職業的専門家が同人からの知見の提供を求めている者に遭遇した場合において、たとえその者が依頼者でなくとも当該職業的専門家は知見の提供をしなければならないという義務が肯定されるとすれば、知見を求める人々の側においてはわざわざ報酬を支払って依頼者となろうとする必要性が消失し、その結果として、職業的専門家の側においては安定した生活基盤の形成が困難となってしまうからである。のみならず、職業的専門家が依頼者に提供する役務の質を向上させるためには職業的専門家と依頼者の間において高度な信頼関係が形成されることが必要であるところ、それを達成するためには職業的専門家は依頼事項に関して依頼者の同意を得ずに依頼者以外の者に対して助言することはないという行動原理が尊重されなければならず、この点からも職業的専門家が依頼者以外の者に対して知見の提供を怠ったことを理由として法的責任を負うことは否定されてしかるべきである。しかしながら、あらゆる法理がそうであるように上記の原則にもまた例外として扱われるべき特段の状況というものが存在する。対応可能な職業的専門家が一人しかいない状況において知見の提供を必要とする突発的事態が発生した場合はその典型であろうが、他の例として、次の三つの条件が同時に成立する場合も特段の状況と評価してよいであろう。

① 法的には依頼者でないにもかかわらず職業的専門家から知見の提供を受け得ると真摯に期待している者がいること。

② その者がそのような期待を抱くことに正当事由が認められること。

③ その者に対して職業的専門家が知見を提供することに対して真の依頼者(もしいれば)が明示的又は黙示的に同意を与えていること。上記の場合、職業的専門家たる者は、その者の期待どおりに知見を提供するか、しからざれば、時機を失することなくその者に対して自分にはそれを行う意思がない旨を告知する法律上の義務を負っていると解すべきである。なぜなら、職業的専門家がそのような配慮を尽くすことによって社会はより安全で公正なものになり得るのであって、しかも、そのような配慮を尽くすことを職業的専門家に求めることは決して同人らに対する過大な要求であるとは考えられないからである。

2 以上の考え方を本件に当てはめて考える。

まず、Y司法書士は司法書士であり、司法書士は登記実務に関する職業的専門家である。したがって、前項で述べた原則によってY司法書士は依頼者以外の者に対して専門的知見の提供を怠ったことを理由として法的責任を負うことは特段の事情がない限り否定されてしかるべきである。しかるに、原判決がY司法書士の違法行為と認定したものはXに対して適切な知見の提供を怠ったというものであり、他方、Y司法書士の依頼者として認定されている者はオンライフとアルデプロだけであって、XはY司法書士の依頼者とは認められていない。以上の事実に照らすならば、特段の事情が認められない限りY司法書士のXに対する法的責任は否定されるべきであり、この点を看過した点において原判決は重大な法令解釈上の誤りを犯していると言わざるを得ない。しかしながら、本件会合は登記申請に用いるべき書面の事前確認等を行う目的で開催されたものであるが、同会合にはAと称する者(以下「自称A」という。)も出席しており、原判決の認定したところによれば本件会合に先立ってBはXの代表者に対して自称Aの本人性を確認するために買主及び買主側司法書士に対して自称Aと面談する事前の機会を設ける旨発言している。これらの事実と本件会合に出席した司法書士はY司法書士だけであったことを併せて考えると、Xは、本件会合に出席したY司法書士が登記実務の専門家としての知見を用いて自称Aの本人性に関する助言を真の依頼者であるアルデプロはもとよりXに対しても行ってくれるものと真摯に期待し、そのことに対しては真の依頼者であるアルデプロも明示又は黙示の同意を与えていた可能性を否定し得ない。したがって、アルデプロがY司法書士の依頼者となるに当たってXが果たした役割やXとアルデプロとの間の人的ないしは経済的関係等に照らしてXが上記のような期待を抱くことに正当事由があったといえるとすればY司法書士のXに対する法的責任が肯定される可能性も決してないとはいえないのである。

3 以上の理由により、私は原判決を破棄してこれを原審に差し戻すべきであると考えるものであるが、差戻審において審理を尽くしてもらいたい事項は前項で述べた諸点に限られるものではない。なぜならば、仮にY司法書士がXに対して自称Aの本人性に関して司法書士としての専門的知見に基づいた助言をすべき法律上の義務を負っていたことが肯定されたとしても、Y司法書士がそのような義務に違反したか否かは記録上定かではないように思えるからである。この点に関して、差戻審の注意を喚起すべく二つの事実に言及しておきたい。すなわち、①本件においては東京法務局渋谷出張所の説明によって本件印鑑証明書が偽造であることが判明したとされているが、本件印鑑証明書の偽造性がどのような理由によって判明したのかについては記録上全く明らかにされていないという点及び②本件委任状には印鑑証明書等の提出によって人違いでないことを証明させた旨の公証人の認証が付されていたという点の二つである。①の事実は、印鑑証明書の真偽を判定するための決め手となる情報は一般に入手可能ではなく、そうであるとすれば、司法書士がこの問題に関して職業的専門家としての見解を責任をもって述べることはそもそも困難なのではないかとの疑念を抱かせるものであり、②の事実は、本件において用いられた偽造の手口は人物の同一性を判別してこれに認証を与えることの職業的専門家である公証人をも欺き得る程に巧妙なものであったことを示唆するものである。①の点に関して更にいえば、Y司法書士が本件会合においていかなる意見を述べるべきであったかを論じるに当たっては、自称Aは本人ではないという事後的に明らかとなった事実をいわゆる「後知恵」として用いないように留意する必要がある。本件会合の時点においては自称Aの本人性は定かではなかったのであるから、Y司法書士が自称Aの本人性に疑問を挟む意見を述べるに当たっては、仮にアルデプロやXがY司法書士の意見を尊重して取引を中止し、しかる後に自称Aが本人であったことが明らかとなった場合において、取引の中止によって利益を逸したと主張するやも知れぬアルデプロやXに対していかにして自分が述べた意見の正当性を示し得るかについて憂慮しなければならなかったのである。差戻審には、以上の諸点を勘案した上で、本件においてY司法書士にはいかなる意見を述べることが現実的に可能であったのかを見極めた上でしかるべき結論を導き出してもらいたいと願う次第である。

コメント

事実関係については、判決文において原審が確定した詳細な事実関係が記載されておりますのでご一読いただければと思います。

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(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
「広く、深く」をモットーに研鑽に努めています。インターネット上の法律情報を整理したサイト「法律情報 navi」を運営していますのでご覧ください。

弁護士 中村友彦(なかむらともひこ) OSAKA ベーシック法律事務所

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