所有権移転と固定資産税の負担
固定資産税は固定資産の所有者に課されますが(地方税法343条1項)、課税技術上の考慮から、同項の所有者とは、土地又は家屋については、土地登記簿もしくは土地補充課税台帳または家屋登記簿もしくは家屋補充課税台帳に所有者として登記または登録されている者をいうとされています(同条2項)。
さらにその基準日については、当該年度の初日の属する1月1日とされています(同法359条)。そのため、同年度の1月1日登記簿上所有者として登記されていると、納期に所有者であつてもなくても固定資産税を課税されることになります(最大判昭昭30・3・23民集9巻3号336頁)。
1月1日時点で真実の所有者でない者が所有名義人であった場合に誰が固定資産税を負担するのか、年度の途中で所有者が変わった場合にはだれば負担するのか、争いがあるので裁判例をご紹介します。
1月1日時点で真実の所有者でない者が所有名義人であった場合
最三小判昭47年1月25日判決(民集26巻1号1頁)
最高裁は次のように述べて、真実は不動産の所有者でない者が、登記簿上その所有者として登記されているために、不動産に対する固定資産税を課せられ、これを納付した場合には、所有名義人は、真の所有者に対し、不当利得として、右納付税額に相当する金員の返還を請求することができるものと解すべきであるとしました。
「固定資産税は、土地、家屋および償却資産の資産価値に着目して課せられる物税であり、その負担者は、当該固定資産の所有者であることを原則とする。ただ、地方税法は、課税上の技術的考慮から、土地については土地登記簿(昭和35年法律第14号附則16条による改正前は土地台帳)または土地補充課税台帳に、家屋については建物登記簿(右改正前は家屋台帳)または家屋補充課税台帳に、一定の時点に、所有者として登記または登録されている者を所有者として、その者に課税する方式を採用しているのである。したがつて、真実は土地、家屋の所有者でない者が、右登記簿または台帳に所有者として登記または登録されているために、同税の納税義務者として課税され、これを納付した場合においては、右土地、家屋の真の所有者は、これにより同税の課税を免れたことになり、所有者として登記または登録されている者に対する関係においては、不当に、右納付税額に相当する利得をえたものというべきである。そして、この理は、同種の性格を有する都市計画税についても同様である。」
年度の途中で競売により所有者が変わった場合
大阪高裁平成23年6月30日判決(金融法務事情1942号127頁)
判決は、原判決を引用し、固定資産税等の賦課期日時点において不動産の所有者でなかった者が、その後、担保不動産競売手続によって当該不動産を買い受けることにより、当該不動産を取得した日の翌日以降の期間に対応する固定資産税等の負担を免れたとしても、それをもって法律上の原因なくして利得したと認めることはできないとしました。
原審・大阪地裁平成23年2月27日判決
「一 地方税法は、不動産に係る固定資産税等について、登記簿等に登記等されたところに従って賦課するという、いわゆる台帳課税主義を採用し(地方税法343条、702条)、かつ、賦課期日は当該年度の初日の属する年の1月1日であると定めており(同法359条、702条の6)、不動産に係る固定資産税等の納税義務は、同日における当該不動産の所有名義人が負うとされている。これは、買受人が不動産競売手続によって競売不動産の所有権を取得した場合(民事執行法79条、188条参照)であっても同様であり、当該不動産の所有権移転登記(同法82条、188条、不動産登記法16条、59条)が、当該年度の初日の属する年の1月1日までにされない限り、買受人が当該年度に係る固定資産税等の納税義務を負うことはない。
そして、不動産競売手続は、私人間における売買契約とは異なり、執行債務者が所有する不動産をその意思によらずに売却して、債権回収を実現するとともに、執行債務者と買受人のみならず、当該不動産の差押債権者(民事執行法87条1項1号、188条)、配当要求債権者(同法87条1項2号、188条)、交付要求債権者(国税徴収法82条、22条5項、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律10条3項、地方税法373条4項等)、仮差押債権者(民事執行法87条1項3号、188条)あるいは担保権者(同法87条1項4号、188条)など、多数の利害関係者間における複雑な法律関係を処理することが求められる手続である。また、競売開始決定がされた旨及び配当要求の終期を公告し、一定の権利者には債権の届出を催告して(同法49条2項、188条)、配当等に与る債権者に一定の制限を加えるとともに、競売不動産上の担保権や用益権を消滅又は失効させるほか(同法59条1項~3項、188条)、引渡命令(同法83条1項本文、188条)によって当該不動産の占有関係を調整するなど、当該不動産をめぐる法律関係につき、ある種の清算的側面を有する手続でもある。
加えて、不動産競売手続による売却の場合、期間入札の入札期間内(民事執行規則34条、46条1項、173条)あるいは特別売却の売却実施期間内(同規則51条1項、173条)に買受けの申出がされるかどうかが明らかでなく、仮に買受けの申出があっても、代金が納付されるまでには一定の期間が設定され(民事執行法78条1項、5項、188条、同規則56条1項、173条)、売却許可決定がされても、これに対する執行抗告(同法74条1項、5項、188条)などがされる場合もあり、当該不動産の所有権がいつ移転することになるかについては、事前に予測することはできない。
二 以上の地方税法の規定及び私人間の売買契約と不動産競売制度との違いに照らすならば、競売不動産に係る固定資産税等の負担について、これを不動産競売手続において執行債務者と買受人との間の合意により調整することは制度上予定されておらず、また、同手続が終了した後に、別個の手続により固定資産税等の負担を調整することも基本的に想定されていないと解するのが相当である。
現在の不動産競売手続実務においては、通常、競売不動産の評価や売却基準価額及び買受可能価額の決定に際し、固定資産税等の税額及びその納付の有無が考慮されていないが、それは、以上のような固定資産税等の負担の調整が制度上予定されていないことに基づくものであると解される。そして、このような不動産競売手続実務を前提に、後日、競売不動産に係る当該年度の固定資産税等の請求を受けることはないと期待して当該不動産の買受けの申出をすることをもって、不合理な行為であるということはできないし、それにより、結果的に買受人が最大で一年分の固定資産税等の経済的負担を免れることになったとしても、当該固定資産税等の賦課期日における不動産の所有者との関係で不当な結果を招来するということもできない。
そうすると、平成22年度の固定資産税等の賦課期日時点において本件不動産の所有者でなかった被告が、その後、担保不動産競売手続によって本件不動産を買い受けることにより、本件日割精算額の負担を免れたとしても、それをもって法律上の原因なくして利得したと認めることはできない。」
年度の途中で競売により所有者が変わった場合
東京高裁昭和41年7月28日判決
土地所有権を譲渡しながら名義変更の手続をしなかつたため台帳上の所有名義人と実質上の所有者とが異なるに至つた場合、その土地に対する固定資産税および都市計画税は、私人相互の関係においては、特別の合意等別段の事情のない限り、実質上の所有者がそ所有期間に応じ日割りをもつて、これを負担すべきであるとしました。
コメント
上記最高裁判決を除き、上記地裁判決および高裁判決の考え方が実務上確定しているわけではなく、種々議論のあるところです。
(弁護士 井上元)