定期建物賃貸借の際の説明書面に関する最高裁平成24年9月13日判決
借地借家法により、期間経過後の更新がない旨の定めのある定期建物賃貸借が可能ですが、賃貸人は賃借人に対し、「期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」(同法38条2項)、「建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」(同法同条3項)と規定されています。
この説明書面につき、①説明書面と契約書は別個のものであることを要するとする見解、②契約書と別個の書面を作成交付する必要はなく契約書案を作成交付すれば足りるとする見解、③賃借人が契約書において当該賃貸借契約が定期建物賃貸借契約であり更新がないことを具体的に認識していた場合には別個独立の書面は要しないとする見解がありましたが、この点につき、最高裁判所平成24年9月13日判決が判断を下しています。
最高裁平成24年9月13日判決
事案の概要
1 建物の賃貸人Xは、本件建物の賃貸借は借地借家法38条1項所定の定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したなどと主張して、賃借人Yに対し、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めた。
2 Yは,同条2項所定の書面を交付しての説明がないから、本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張した。
3 原判決は、本件賃貸借は定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したと判断したため、Yが上告した。
判決の内容
「期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項)、そのような賃貸借をしようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。
法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。
以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと、同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして、紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。
したがって、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお、上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
そうすると、本件定期借家条項は無効というべきであるから、本件賃貸借は、定期建物賃貸借に当たらず、約定期間の経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。」
コメント
最高裁平成22年7月16日判決は、説明書面の交付があったことについての主張立証につき、次のように判示しており、あわせて参考にしてください。
「前記事実関係によれば、本件公正証書には、説明書面の交付があったことを確認する旨の条項があり、上告人において本件公正証書の内容を承認した旨の記載もある。しかし、記録によれば、現実に説明書面の交付があったことをうかがわせる証拠は、本件公正証書以外、何ら提出されていないし、被上告人は、本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことについて、具体的な主張をせず、単に、上告人において、本件賃貸借の締結時に、本件賃貸借が定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間の満了により終了することにつき説明を受け、また、本件公正証書作成時にも、公証人から本件公正証書を読み聞かされ、本件公正証書を閲覧することによって、上記と同様の説明を受けているから、法38条2項所定の説明義務は履行されたといえる旨の主張をするにとどまる。
これらの事情に照らすと、被上告人は、本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく、それにもかかわらず、単に、本件公正証書に上記条項があり、上告人において本件公正証書の内容を承認していることのみから、法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定は、経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。」
上記のとおり、定期建物賃貸借の契約締結の際に説明書面を交付することは必須となっていますので十分に注意してください。
国土交通省は、同サイトにおいて「定期賃貸住宅契約についての説明」(借地借家法第38条第2項関係)を公開していますので参照してください。
国土交通省≫■「定期賃貸住宅標準契約書」関係様式のダウンロード
(弁護士 井上元)