建物賃貸借の解約等と立退料につき判断した東京地裁平成25年判決3例

 建物の賃貸人が、建物賃貸借契約の更新拒絶もしくは解約をするためには、正当な事由が必要であり、正当事由として、借地借家法第28条では、①建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況及び建物の現況、④立退料の申出、などが規定されています。

 更新拒絶における正当事由については、多数の裁判例が現れておりますが、比較的最近である平成25年の東京地裁の裁判例3例をご紹介します。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第28条「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

東京地裁平成25年1月25日判決(正当事由肯定例)

建築年:昭和49年

物件:歯科診療所

 判決は、次のように述べて、賃貸人Xの賃借人Yに対する解約を認めました。

「以上の被告の本件建物部分についての使用の必要性やその程度を踏まえると、Xに本件建物部分の明渡しを求める必要性があることは否定できないものの、立退料なしに正当の事由が具備されるということはできない。他方、Yは、立退料の支払によっても正当の事由が具備されない旨主張するが、前記のとおり、Yが本件建物部分を利用する必要性が高いとはいえ、Xが本件建物部分及び本件土地部分一の明渡しを受けられないとすると、Xは、所有者であるにもかかわらず、本件土地部分一及び本件建物部分よりも格段に広い本件土地全体の自由な利用を妨げられ、合理性のある本件開発計画を実現できなくなる。そして、歯科診療所の競争が激しくなっているとしても、一般に歯科診療所を開設し得る場所は多数存在しており、Yが本件建物部分以外の場所で歯科診療所を開設することも可能である。また、本件歯科診療所の近隣においても歯科診療所を開設することが可能な賃貸物件が存在しており(略)、Yは、本件土地の近隣の建物を賃借して歯科診療所を続けることもできなくはないから、本件歯科診療所で診療を受けていた患者を喪失することを回避することもある程度可能である。Yの主張する不信行為も立退料によって正当の事由が補完されることを妨げるものとまではいえない。したがって、Yが本件建物部分を立ち退いて本件歯科診療所が閉鎖されることによる損失を立退料によって一定程度補うことができる。そして、Xは、平成23年○○月○日付け訴え変更申立書で、主位的に6000万円の提供を申し出、更に、平成24年○月○○日付け訴え変更申立書(2)により、裁判所が相当と認める金額をもって立退料とする意思を明確にしているところ、解約申入れの正当の事由の判断に際しては、解約申入れ後の立退料の増額を斟酌できる(最高裁平成3322日第二小法廷判決・民集453293頁)から、本件においては、Xに立退料を支払わせることにより、口頭弁論終結の6か月前までに正当の事由が具備されるというべきである。」

東京地裁平成25225日判決(正当事由否定例)

建築年:昭和56年

物件:飲食店

 判決は、次のように述べて、賃貸人Xの賃借人Yに対する更新拒絶を認めませんでした。

「(3) 上記~で認定説示した事情を総合すると、本件更新拒絶の通知については、Yの存在を承知しつつ比較的低廉な価額をもって本件建物を取得したXが、建物の自己使用の必要性が上回るYに対し、建物取得後短期間のうちに不随意での立ち退きを迫る実質を有するものといわざるを得ない(略)。

 Xは、これを正当化する事情として、主として本件建物の耐震性能の問題を挙げているが、本件建物の耐震性能の不足の程度は、それ自体、建物の建替えの必要を直ちに肯定し得る域にまで達しているものではない。確かに、本件建物の耐震性能は、新耐震基準に照らせば十分なものではないから、これに対処する措置をとることが望ましいが、安全性の観点だけからすればその措置をとるべき緊急性が切迫しているとまではいえず、また、その措置の選択として、必要最低限の補強工事にとどまらず、より重篤な工事を施したり、更には建替えを行ったりする方針をとるというのであれば、それは、純粋な安全性への配慮目的というよりは、むしろXによる利益獲得の目的が前面に出たものとみざるを得ない(略)。そうすると、本件建物の耐震性能の問題に対処する措置を、いつ、どの程度行うかは、Xが自己の責任において判断し、また、その負担によって担うべき問題であって、それにもかかわらず、耐震性能の問題への対処として即時の建替えを選択するというのであれば、それは、主としてXの営利目的から、Yに不随意での立ち退きを迫り、その負担を一部でも担うように強いるものと評価せざるを得ないから、上記のような実質を有する本件更新拒絶の通知について、その正当事由を基礎付ける事情にはなり得ないというべきである。

 そして、このように建替えの必要性から正当事由が認められないことに照らすと、Xが自ら招いた本件建物の利用状況の現状(略)についても、正当事由を基礎付ける事実となるものではなく、その他、本件更新拒絶の通知について、正当事由を基礎付ける事実を認めるに足りない。

(4)Xは、本件建物の明渡しと引換えに、2156万円を上限として、Yに対して財産上の給付をする旨を申し出ているが、上記~で説示したように、この申し出については、それ自体が正当事由を基礎付ける事実となるもではなく、正当事由を補完するにすぎないものである。そして、上記(3)のとおり、本件更新拒絶の通知については、その正当事由を基礎付ける事実がおよそ認められないのであるから、Xの上記立退料の申し出によってもなお正当事由を認めることはできない。

 したがって、本件更新拒絶の通知は正当事由に欠けるものであるから、平成21年○月○日の経過をもって期間満了による終了を認めることはできず、本件賃貸借契約は、期間の定めがないものとして、従前の契約と同一の条件で更新されたものと認められる(借地借家法261項)。

 なお、Xは、本件本訴を提起し維持しているから、上記~で説示したように、これにより、本件賃貸借契約の解約申入れ(借地借家法271項)を継続していたものということもできるが、本件口頭弁論終結までの間においても前記(3)の事情に格別の変化は認められないから、上記解約申入れについても、正当事由があると認めることはできない。」

東京地裁平成251224日判決(正当事由否定)

建築年:昭和41年

物件:飲食店

 判決は、次のように述べて、賃貸人Xの賃借人Yに対する更新拒絶を認めませんでした。

「建物の賃貸人による更新拒絶の通知は、①建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、②建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに③建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない(借地借家法附則12条、借家法1条の2)。そして、この正当事由の有無の判断に当たっては、上記①を主たる要素とし、上記②及び③は従たる要素として考慮すべきであり、上記③については、それ自体が正当事由を基礎付ける事実となるものではなく、他の正当事由を基礎付ける事実が存在することを前提に、当事者間の利害の調整機能を果たすものとして、正当事由を補完するにすぎないものであると解するのが相当である。」

「ウ 以上のとおり、本件更新拒絶の意思表示は、本件建物を使用する積極的な事情の認められないXが、本件店舗の使用を必要とする相当に切実な事情があるというべきYに対して、不随意での立退きを求めるものである。したがって、上記②の事情に関して、それでもなおYの立ち退きを肯定すべき相当程度の事情が認められなければ、その正当事由は容易には認め難いというべきであるが、Xが主として主張する本件建物の耐震性能の問題は、証拠上は、それが直ちに本件建物を取り壊す必要性を肯定できる程度にまで至っていると認めるに足りず、その他、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況について、上記の正当事由を肯定するに足りる事情は認められない。

 確かに、本件建物は既存不適格の建物であり、耐震診断の結果等に照らしても、耐震補強工事を施すことが望ましく、また、従前の賃料が比較的低廉であったことなどにも照らせば、その費用をXのみが負担することが相当とも断じ切れないところがある(なお、耐震性能の問題から本件店舗の使用収益に具体的支障が生じていると認めるに足りないから、現状において、YからXに対して一方的に本件建物の耐震補強工事を求められるものではないと解される。)が、本件建物の耐震性能の問題に対処する措置を、いつ、どの程度行うかは、XYを始めとする本件建物の賃借人との話し合い等によって解決すべき問題であって、現状において、上記の措置につき、Yに不随意での立退きを求めて本件建物を取り壊すとの選択を採ることが、正当であるというべき事態にまで至っていると認めることはできない。

 なお、Xは、本件建物に耐震改修工事をして使用を継続する方法には合理性がなく、極めて非現実的である旨をも主張しているが、以上の認定説示したところを踏まえると、この点についても、Xによって上記の判断を左右するに足りる主張、立証がなされたとは認められない。

エ Xは、本件建物の明渡しと引換えに、2985万円の給付をする旨を申し出ているが、上記~で説示したように、この申し出については、それ自体が正当事由を基礎付ける事実となるものではなく、正当事由を補完するにすぎないものである。そして、上記のとおり、本件更新拒絶の通知については、その正当事由を基礎付ける事実がおよそ認められないのであるから、Xの上記立退料の申し出によってもなお正当事由を認めることはできない。」

コメント

 賃貸借契約の解約もしくは更新拒絶につき、立退料の提示を正当事由の補完事由として認めた裁判例、認めなかった裁判例は極めて多数に上っており、個別の事案において、認められるか否かを判断することは困難です。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
「広く、深く」をモットーに研鑽に努めています。インターネット上の法律情報を整理したサイト「法律情報 navi」を運営していますのでご覧ください。

弁護士 中村友彦(なかむらともひこ) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(2012.12 登録、日弁連登録番号:46674)
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