仮処分を行った後に本案訴訟で敗訴した場合の損害賠償責任

 紛争の相手方名義の財産につき、仮処分や仮差押を行うことがあります。例えば、対象である不動産(土地、建物)を当方と相手方のどちらは所有者であるか争いとなった場合、相手方名義の不動産をそのままにして訴訟を提起しても、訴訟進行中に相手方が当該不動産の名義を変更してしまと、せっかく訴訟で勝訴しても不動産の名義を取り戻すことができなくなってしまいます。この場合、当該不動産につき仮処分をかけ、保全するのです。

 しかし、仮処分をしたものの、本案訴訟で敗訴した場合、当該仮処分は間違っていたことになりますから、仮処分が違法であったとして、相手方から損害賠償請求を受けることがあります。

 この場合、仮処分を申請した者は、相手方に対して損害賠償をしなければならないのでしょうか?

最高裁昭和431224日判決

 この点、上記最高裁判決は次のように判示しています。

「仮処分命令が、その被保全権利が存在しないために当初から不当であるとして取り消された場合において、右命令を得てこれを執行した仮処分申請人が右の点について故意または過失のあつたときは、右申請人は民法709条により、被申請人がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があるものというべく、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、右申請人において過失があったものと推認するのが相当である。しかしながら、右申請人において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、右取消の一事によって同人に当然過失があったということはできず、ことに、仮処分の相手方とすべき者が、会社であるかその代表者個人であるかが、相手側の事情その他諸般の事情により、極めてまぎらわしいため、申請人においてその一方を被申請人として仮処分の申請をし、これが認容されかつその執行がされた後になって、他方が本来は相手方とされるべきであつたことが判明したような場合には、右にいう相当な事由があつたものというべく、仮処分命令取消の一事によって、直ちに申請人に過失があるものと断ずることはできない。」

 整理すると次のようになります。

① 仮処分命令が、その被保全権利が存在しないために当初から不当であるとして取り消された場合、仮処分申請人がこの点について故意または過失のあつたときは、申請人は民法709条により、被申請人がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務がある。

② 一般に、特段の事情のないかぎり、申請人において過失があったものと推認するのが相当である。

③ しかし、申請人において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には当然過失があったということはできずない。

 すなわち、仮処分を行った者が、仮処分を行うにつき相当な事由があった場合には損害賠償責任は負わないということになります。

損賠賠償責任につき判断された裁判例

大阪高裁平成11625日判決

 処分禁止の仮処分中に地価が下落した場合、平成5年以降の地価下落による損害が特別損害ではないとして、その下落額につき損害賠償を命じました。

東京地裁平成26123日判決

 過失の存否につき、「このような事情を重く見れば、本件においては、被告が本件仮処分を申し立てたことにつき相当の理由があると判断することも不可能ではないと解するが、被告は、本件訴訟において、前訴同様に、専ら平成○○年○○月○○日に売買契約が成立しており、仮に成立していなかったとしても、成立したと信じるにつき相当の理由がある旨主張するのにとどまるものであることも勘案して、さらに、争点2について判断することとする。」と判示し、争点2(相当因果関係のある損害の存否)について「原告主張の損害は,発生していないか、又は本件仮処分との間で相当因果関係のある損害であると認めることはできない」として請求を棄却しました。

結論

 仮処分を行った後に本案訴訟で敗訴した後に相手方から損害賠償請求を受けた場合には、次の2点が争点となります。

① 仮処分を申し立てた者に過失があるか。

② 仮処分を受けた者に損害が発生したか。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
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