家主の家賃保証会社に対する通知の遅延と免責の可否

 建物を賃貸するに際して、家賃保証会社に保証してもらうケースが増えてきている模様ですが、当然のことながら、保証には一定の制約があります。  家主が家賃保証会社に対して未払い家賃についての保証債務の履行を求めたところ、家賃保証会社が、賃料等延滞についての通知が遅延したことを理由に免責される旨の抗弁がなされた事案がありますのでご紹介します。

名古屋地裁平成24年5月31日判決

事案の概要

①貸主Xは、借主Aに建物を賃貸し、家賃保証会社Yが連帯保証した。

②借主Aは、平成23年3月分の賃料等の一部を滞納し、同年4月分以降の賃料等も滞納した。

③家主Xは、家賃保証会社Y被告に対し、平成23年9月27日、内容証明郵便にて借主Aが賃料等を滞納していることを伝え、連帯保証債務を履行するよう催告した。

④貸主Xは、借主Aに対し、同年10月5日、滞納賃料を支払うよう催告するとともに、期限内に滞納している賃料等を支払わない場合には賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。

⑤家主Xは、平成24年3月15日、借主Aから、強制執行により建物の明渡しを受けた。

⑥家主Xは、家賃保証会社Yに対、連帯保証契約に基づき、連帯保証債務の履行として未払賃料72万5032円の支払いを求める訴訟を提起した。

保証契約の内容

(ア)家主Xは、家賃保証会社Yに対し以下の義務を負う。

a 賃借人の賃料等の支払状況を確認し、家賃保証会社Yに報告すること。

b 家賃保証会社Yが指定する書面により、家賃保証会社Yに対し、下記(エ)に定める事故報告をすること。

(イ)家賃保証会社Yは、賃借人が賃貸人に対して負担する債務のうち保証期間内の賃料等及び賃料等相当損害金の支払債務について賃借人と連帯して保証する。ただし、免責事項に該当する場合はこの限りではない。

(ウ)家賃保証会社Yの保証限度額は、賃貸物件の用途が居住用である場合は上記(イ)の債務の24か月分に相当する金額とする。

(エ)賃貸人は、賃借人の債務不履行について、家賃保証会社Y指定の代位弁済請求申請書を用いて、賃料等の支払期日から40日以内に通知して事故報告を行う。

(オ)賃借人の滞納が発生しているにもかかわらず、賃貸人が家賃保証会社Yに対して賃料等の支払期日から40日以内にその事実を通知しなかった場合は、家賃保証会社Yは以下の割合により算定した保証債務を負う。

a 41日以上60日以内の滞納事故報告の場合は80パーセント保証

b 61日以上80日以内の滞納事故報告の場合は50パーセント保証

(カ) 賃貸人が次のいずれかの事由に該当する場合は、家賃保証会社Yは保証債務の支払義務を負わない。また、保証契約上の一切の債務が消滅するものとし、保証は遡及的に消滅するものとする。

a 賃借人の滞納が発生しているにもかかわらず、家賃保証会社Yに対して滞納の発生日から81日以上経過して事故報告を行った場合

b 上記(ア)に定める賃貸人の義務を怠った場合

争点

 家主Xが家賃保証会社Yに賃料等を滞納していることを通知したのは81日経過後であることを理由に、家賃保証会社Yが免責されるか否か。

判決の内容

ア 確かに、本件連帯保証契約の契約書には、Aが賃料等を滞納した場合には、40日以内に家賃保証会社Yに通知して事故報告を行うべきこと、81日以上経過して事故報告を行った場合には家賃保証会社Yは保証債務の支払義務を負わないことが明記されており、この内容自体、明確であるし、貸主Xも契約書を受領しており、少なくともその内容を認識し得る状態であった。

 また、連帯保証人である家賃保証会社Yは、賃料等の支払状況を把握することが困難であるため、賃貸人である貸主Xに対して通知を求めることは合理性のあることであるし、通知の求めを実効あるものとするために、通知しなかった場合に、一定の要件の下で、連帯保証債務の履行をしないものとすることも、直ちに合理性を欠くということはできない。

イ 他方で、連帯保証人が賃貸人に対して通知を求める以上、賃貸人において通知しなければならないことを認識している必要があることはいうまでもないことであって、連帯保証人である家賃保証会社Yとしては、契約の相手方である貸主Xに対して通知を求める旨を説明すべき義務(責務)を負っていることは明らかである。

 また、そもそも連帯保証人は主たる債務者と同一の責任を負うのが原則であって(民法447条1項参照)、いったん連帯保証人について連帯保証債務が発生したにもかかわらず、これを免れることができるというのは例外的なことである。しかも、保険契約の免責事由のように、そのような定めがあることは一般的ではなく、しかもその趣旨は、連帯保証人が自らの利益のために求めている通知を実効的なものにするためであって、主として連帯保証人の利益のためであるから、連帯保証人としては、保険契約の免責事由以上に、その存在や内容を説明すべき義務(責務)を負っているというべきである。

 そして、連帯保証人が以上のような義務(責務)を怠った結果、賃貸人が賃料等の滞納を通知しなかった場合には、そのことは連帯保証人が自ら招いた結果といわざるを得ない。

ウ それだけでなく、本件連帯保証契約においては、連帯保証人が賃料等の滞納の通知を受けることができなかったことによって、直ちに何らかの損害を被るわけではなく(事案によっては、賃貸人が早めに賃料等の滞納を家賃保証会社Yに通知しても、家賃保証会社Yは連帯保証人としての責任を負わなければならない場合もある。)、しかも、賃料等の滞納は賃借人の行為(不作為)によるものであるから、賃貸人の側に証拠が偏在しているとか、賃貸人側に類型的にモラルリスクのおそれがあるというわけではない。

 また、本件連帯保証契約では、賃貸人が80日以内に賃料等の滞納を通知しなかったということだけをもって、連帯保証人の責任を免れることとしており、賃貸人の主観的事情や通知が遅れた事情はもちろん、通知が遅れたことが連帯保証人の責任拡大につながったかどうか等の諸事情を全く考慮することなく、当然に連帯保証人の責任を免れさせることとしている。

エ 以上のことを総合すると、賃貸人に賃料等の滞納の通知を求めること自体は合理性のあることであったとしても、80日以内に通知しなかったことをもって直ちに連帯保証人が全責任を免れるとすることは、事案によっては、信義則ないし衡平の観念に反し許されないと考えられる(最高裁昭和60年(オ)第1365号同62年2月20日第2小法廷判決・民集41巻1号159頁、最高裁平成7年(オ)第1659号同平成13年3月27日第3小法廷判決・民集55巻2号434頁等参照)。

オ そこで、以上のことを踏まえ、本件で家賃保証会社Yが全額の免責を主張することが信義則等に反するかについて検討する。

(ア) まず、家賃保証会社Yによる説明の問題について検討すると、家賃保証会社Yは貸主Xに対して本件連帯保証契約の契約書を交付したとはいえ、本件免責の定めが記載されている裏面の文字は非常に細かい文字で、しかも行間を詰めて記載されているのであり、契約書が交付されたことをもって上記イで判示した連帯保証人としての義務(責務)を果たしたとはいえない。

 また、家賃保証会社Yは本件マニュアルを貸主Xにも交付したと主張しているものの、上述したとおり貸主Xに交付したとは認められないし、Bが貸主Xの代理人であるとも認められないから(同社は貸主Xの仲介業者であるだけであるし、むしろ家賃保証会社Yは同社が自己の代理人であると主張している。)、本件マニュアルがBに交付されただけで上記義務(責務)が果たされたといえないことは明らかである。

 なお、本件マニュアルでは、「加盟店」が代位弁済請求書に記入することとされているが、そもそも「加盟店」というのは家賃保証会社Yとの関係での加盟店であって、貸主Xがここでいう「加盟店」に当たらないことは明らかである。

 以上のことを踏まえると、家賃保証会社Yは賃料等の滞納について通知が必要なことや通知の方法等について、貸主Xに対する説明義務(責務)を十分に履行したということはできない。

(イ) その他の事情についても検討すると、貸主Xは結局、Aによる賃料等の滞納から約7か月経過後にその事実を家賃保証会社Yに通知したところ、上記判示を踏まえると、貸主X代表者は本件免責の定めの存在を認識しながら、家賃保証会社Yに対する通知を怠り、又は殊更に通知を遅らせたわけではない。そうすると、通知が遅れたことには通知すべきことや本件免責の定めの存在を貸主Xに十分説明しなかった家賃保証会社Yにも責任があるというべきである。そればかりか、Aは平成23年3月以降強制執行に至るまで、賃料等を全く支払わず、自発的に明渡しをすることさえしなかったというのである。そうすると、仮に貸主Xが家賃保証会社Yに適時に通知していたとしても、Aは同じような対応をしていたと考えるほかなく、貸主Xが通知を怠ったことが家賃保証会社Yの責任拡大につながった(家賃保証会社Yに何らかの損害が生じた)とまで認めることはできない。

 この点、本件免責の定めでは、通知が遅れた日数に応じて家賃保証会社Yの責任の割合を変えており、その日数自体、ある程度余裕をもった形で設定されているものの、通知すべきことや本件免責の定めを認識していない者との関係ではその日数に余裕があることそのものには特段の意味はない。むしろ、家賃保証会社Yへの通知の方法を知らされず、そのための書面も渡されていなかった貸主Xが、変更後の家賃保証会社Yの本店所在地を調べて内容証明郵便を送付したという経緯や、賃貸借契約を解除するためには一定期間の賃料等の滞納の事実が必要と解されていることを踏まえると、貸主Xが家賃保証会社Yに連絡をとったのが賃料等の滞納から約7か月後であったということが、不合理というほど遅いとまでいうことはできない。

(ウ) 以上のことを総合すると、家賃保証会社Yが自らの説明義務(責務)を怠っておきながら、貸主Xによる通知の懈怠の責任だけを主張し、連帯保証人としての責任を全部免れることは、信義則ないし衡平の観念に反するといわざるを得ない。

 もっとも、貸主Xは本件連帯保証契約の契約書を受領しており、家賃保証会社Yに通知すべきことや本件免責の定めの存在を認識し得たこと、その他の上記認定事実を考慮すれば、家賃保証会社Yにおいて4割の限度で連帯保証人としての責任を免れることを主張することは信義則ないし衡平の観念に反しないと考えられる。

コメント

 上記判決では、家賃保証会社との契約上では100%免責されるところ、40%の範囲でのみ免責を認めたものですが、これは家賃保証会社Yにも家主Xに対する説明を怠ったという事情があったためであり、他のケースでも当然に免責が制限されるというものではありません。

 家主にとって、家賃保証会社を利用することは便利ではありますが、家賃保証会社も商売で行っている以上、上記のような制限があります。家主の方々はこの点に十分注意してください。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
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