地下水湧出が土地の瑕疵にあたるとした名古屋地判H25.4.26

土地売買における瑕疵担保責任

 売買の目的物に瑕疵(欠陥)がある場合、買主は売主に対して瑕疵担保責任(民法570条)により、そのために契約をした目的を達することができないときは契約の解除を、契約の解除をすることができないときは損賠賠償請求をすることができます。

 しかし、瑕疵(欠陥)に該当するのか否かにつき争いが生じることも少なくありません。

瑕疵の判断基準につき判示した最高裁平成22年6月1日判決

 購入した土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから、このことが民法570条にいう瑕疵に当たると主張して、買主が売主に対して瑕疵担保による損害賠償を求めた事案です。

 原審の東京高裁平成20年9月25日判決は次のように述べて請求を一部認容しました。

「居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に、人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、上記土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきであるから、売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が、売買契約締結当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが、その後、有害であると社会的に認識されたため、新たに法令に基づく規制の対象となった場合であっても、当該物質が上記の限度を超えて上記土地の土壌に含まれていたことは、民法570条にいう瑕疵に当たると解するのが相当である。したがって、本件土地の土壌にふっ素が上記の限度を超えて含まれていたことは、上記瑕疵に当たるというべきである。」

 これに対し、最高裁平成22年6月1日判決は次のように述べて買主の請求を棄却しました。

「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人(買主)の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。」

名古屋地裁平成25年4月26日判決の事案

事案の内容

 この事案は、宅地の売買契約により取得した土地が地下水集中地盤で、地表から0.5メートルの地下水位から地下水が湧出していることは、土地の瑕疵にあたるとして、買主が売主に対して瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求を行ったものです。

瑕疵に関する判断

 名古屋地裁平成25年4月26日判決は次のように述べて瑕疵に該当すると判断しました。

「本件土地の地下約0.5mの位置に地下水脈があり、本件土地において地下水が湧出していることが認められるところ、本件土地では、平成21年3月には、本件土地の表土を50ないし60cm鋤いただけで地下水が湧出して本件土地の約3分の1に水が貯留する通常とはいえない状態が生じている。また、このように地下水が浅い位置にある場合、建物の基礎として直接基礎を採用できず、地盤表層改良をしても効果が期待できない上、一般的な地盤改良方法である柱状改良工法を用いても、流し込んだセメントが湧水層に流出してしまうため地盤改良の効果がないから、鋼管杭による杭地業工事でもって地盤改良をする必要がある。さらに、鋼管杭は、先端部分の支持力に加えて杭と地盤の摩擦力で建物の重さを支えるので、その途中の地盤が軟弱であれば水平方向の力は支えられないし、本件土地のように地下水位が浅い位置にある場合、一般的な宅地以上に地表の雨水を速やかに排水する必要があるし、地盤沈下を避ける必要もあるから、本件土地には透水管を設置する必要がある。

 そして、名古屋市における平均地下水位は、浅いところでも13m程度であるし、約100件の戸建て住宅の建築設計に関わったA建築士の経験では、1.5mというものが最も浅い地下水位であり、地下水位が0.5mないし1m程度であったことはなく、A建築士が透水管を使用した土地も、木曽川沿いや田の用水沿い、造成時に沈砂池であった場所など比較的地下水位が浅いことが想定される土地であったと認められる。これによれば、本件土地は、周囲に川や田等がなく、地下水位が浅いことが想定されていない土地であるにもかかわらず、地下約0.5mの位置に地下水脈があるという特異な土地であるといえる。そして、その結果、前記説示のとおり、宅地として本件土地を利用するためには透水管の設置等が必要となるところ、透水管の設置等が必要な宅地は多くないことに照らせば、本件土地には透水管の設置等が必要な瑕疵があるというべきである。」

損害額

 そして、上記判決は、本件瑕疵に伴って増加した工事費用(正常な宅地としての利用に供するために増加した工事費用)及び弁護士費用相当額を損害と認めました。

コメント

 買主は、購入した土地に何らかの問題があると、単純に瑕疵(欠陥)があると考えがちですが、瑕疵に該当するか否については裁判例の集積がありますのでご注意ください。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
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