競売における執行官の現況調査に関する東京地判H25.4.24

執行官による現況調査

 不動産競売の場合、執行官が現況調査を行って調査報告書を裁判所に提出します。入札に際しては、この現況調査報告書は閲覧に供され、入札に参加しようとする者が、入札に参加するか否か、入札価格を幾らにするか決めるに際して、現況調査報告書は重要な資料となります。

 執行官の行う現況調査についはて民事執行法57条1項で「執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。」と規定され、調査報告書については民事執行規則29条で調査報告書の内容の詳細が規定されています。

執行官の注意義務に関する最高裁平成9年7月15日判決

 このように、入札に際して執行官が作成する現況調査報告書は入札に参加する者にとって重要な資料となるものですから、その内容に誤りがあり、落札者が不測の損害を被った場合、国家賠償請求により執行官の注意義務違反が問われることになります。

 この執行官の注意義務につき、最高裁平成9年7月15日判決は次のように述べています。

「執行官が現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らず、あるいは、調査結果の十分な評価、検討を怠るなど、その調査及び判断の過程が合理性を欠き、その結果、現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には、執行官が前記注意義務に違反したものと認められ、国は、誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の責任を負うと解するのが相当である。」

東京地裁平成25年4月24日判決の事例

事案の内容

 不動産競売事件において、建物1階車庫に駐車されていた自動車内に死体が存在していたところ、執行官が現況調査において、自動車内にあった死体や遺書を見落とし、現況調査報告書に自殺に関する記載をしなかったために、買受人は、内部で人が自殺した物件であることを知らずに買い受けました。そこで、本件不動産の売却基準価額の30パーセント相当額の損害を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、国に対し損害賠償を求めた事案です。

判決内容

判決は次のよう述べて請求を棄却しました。

1(1) 国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員の行為が、国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは、当該公務員が個別の国民に対して職務上の法的義務を負担しており、これに違背して当該行為が行われた場合であることを要するところ(最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、同裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)、民事執行手続における現況調査(民事執行法57条)の目的が、執行裁判所に売却条件の確定や物件明細書の作成等のための判断資料を提供するとともに、現況調査報告書の写しを執行裁判所に備え置くなどして一般の閲覧に供することにより、不動産の買受希望者に判断資料を提供することにあることに照らせば、執行官は、執行裁判所に対してはもとより、不動産の買受希望者に対する関係においても、目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負うものと解される。

 そして、現況調査に対する迅速性の要請や調査実施上の制約が存在することを考慮すると、現況調査報告書の記載内容が目的不動産の実際の状況と異なっても、そのことから直ちに執行官が前記注意義務に違反したと評価するのは相当ではないが、執行官が現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らずあるいは調査結果の十分な評価、検討を怠るなど、その調査及び判断の過程が合理性を欠き、その結果、現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過しがたい相違が生じた場合には、執行官が前記注意義務に違反したものとして、被告は、誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2645頁参照)。

(2) 現況調査において執行官が調査すべき事項は、不動産の形状、占有関係その他の現況(民事執行法57条1項)であり、具体的に調査すべき事項は民事執行規則29条1項所定の事項であるところ、同項は、調査の目的物の特定のほか、その占有関係について、占有者の表示及び占有の状況を記載することとし、占有者が債務者以外である場合にその権利関係について関係人の陳述等及びこれに対する執行官の意見を記載することとしているから、執行官は、調査の目的物の占有状況について、占有者とその占有の方法及び態様について調査すべきであり、占有者が債務者以外である場合には、占有の開始時期等、その占有の態様を調査すべき義務を負うものである。

 したがって、調査の目的物が建物である場合に、建物内部に自動車が置かれているときは、占有の態様としてこれを調査し、現況調査報告書に、建物内部に自動車が存在していることを記載すべきであるが、そのことから当該自動車そのものが調査の目的物となるものではなく、自動車内部に存在する動産等により、当該自動車を置いて建物を占有している者を特定する必要があるなど特段の事情がない限り、自動車の内部が当然に調査の対象となるものではない。

 また、原告提出の現況調査報告書及び評価書によると、民事執行手続において、目的不動産で自殺など人の不自然死が発生したことが判明した場合には、これを現況調査報告書に記載し、その評価に当たりその事実を考慮しているといえるが、対象不動産に対する通常の調査の経過において、人の不自然死の発生ないしその遺体の存在が判明する場合は格別、そうでない場合には、これを疑うべき特段の事情がない限り、民事執行手続における上記のような取扱から当然に、執行官が、一般的に、現況調査に際し、調査の目的物で自殺など人の不自然死が存在するか否かについてことさら調査すべき義務を負うとはいえない。

コメント

 執行官は、現況調査を行うに際して、不動産への立ち入り、関係者に対する質問、文書の提示を求めること、閉鎖した戸の解錠などの権限を有しています(民事執行法57条2項~5項)。

 このように、執行官は大きな権限を有していますので、入札参加者にとり現況調査報告書は最も重要な資料であることは間違いありません。

 しかし、執行官も調査にも限界がありますので、現況調査報告書の内容が万全ではないことを理解する必要があります。不動産を取得しようとする以上、自分でも十分な調査を行う必要があると言えるでしょう。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
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弁護士 中村友彦(なかむらともひこ) OSAKA ベーシック法律事務所

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