小作地に対する宅地並み課税による小作料増額請求と最高裁平成13年3月28日判決

問題の所在

 市街化区域に存する農地には、生産緑地地区の指定を受けない限り、宅地並み課税による固定資産税及び都市計画税が課されます。 その結果、当該農地の所有者が受け取る小作料より固定資産税等の方が高額になる、いわゆる「逆ザヤ現象」が生じることが多々あります。

最高裁平成13年3月28日判決

 そこで、農地の所有者が、小作農に対して小作料の増額請求をしたところ、最高裁平成13年3月28日判決は、固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額を請求することはできないとの判断をしました。 尚、条文は当時のものです。

「(1)ア 法は、昭和45年に行われた改正(同45年法律第56号による改正。同年10月1日施行)によって、同14年の小作料統制令による統制以来行われてきた小作料の最高額の統制を廃止し、小作料を当事者の自由な決定にゆだねるとともに(ただし、同55年9月30日まで統制を存続する旨の経過規定がある。同45年法律第56号附則8項、同45年政令第255号附則6項)、当初定められた小作料の額がその後の事情の変更によって不相当となった場合における小作料の増減請求に関する規定として23条を置き、同条1項は、「小作料の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の小作料の額に比較して不相当となつたとき」には、当事者は、将来に向かって小作料の額の増減を請求することができる旨を規定した。この規定は、継続的契約関係における当事者間の利害を調整しようとする規定であって、借地借家法附則2条により廃止された借地法12条1項や借地借家法11条1項と同一の趣旨のものであるが、これらの規定が土地に対する租税その他の公課の増減を地代の額の増減事由として明定しているのに対し、経済事情の変動の例として「農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下」を挙げているにすぎず、小作地に対する公租公課の増減を増減事由として定めていない。 また、法は、小作料の統制廃止後においても、不当に高額の小作料が取り決められて耕作者の地位の安定を害することがないようにするため、上記改正に当たり新たに小作料の標準額の制度を設け、農業委員会は、小作料の額の標準となるべき額(小作料の標準額)を定め(24条の2第1項)、契約で定める小作料の額が小作料の標準額に比較して著しく高額であると認めるときは、当事者に対し、その小作料を減額すべき旨を勧告することができるものとした(24条の3)。そして、小作料の標準額を定めるに当たっては、「通常の農業経営が行なわれたとした場合における生産量、生産物の価格、生産費等を参酌し、耕作者の経営の安定を図ることを旨としなければならない」と規定した(24条の2第2項)。さらに、法は、災害等による一時的な減収があった場合の耕作者の地位の安定を図るために、小作料の額が不可抗力により、田にあっては収穫された米の価額の2割5分、畑にあっては収穫された主作物の価額の1割5分を超えることになった場合には、小作農は、上記割合に相当する額になるまで小作料の減額を請求することができる旨を定めている(24条)。 これらの規定に加え、法が耕作者の地位の安定をその目的の一つとしていること(1条)を合わせて考慮すると、法は、小作料の統制廃止後においても、耕作者の地位ないし農業経営の安定を図るため、当該農地において通常の農業経営が行われた場合の収益を基準として小作料の額を定めるべきものとしていると解するのが相当であり、法23条1項もこの趣旨に沿って解釈すべきである。そして、前記のように昭和46年に農地に対する宅地並み課税の制度が創設され、同48年度以降、その対象が拡大されてきた過程においても、法の上記各規定には何らの変更も加えられなかったのであるから、宅地並み課税の対象とされる農地の小作料の額についても、上記説示と異なるところはないというべきである。

イ また、農地に対する宅地並み課税は、市街化区域農地の価格が周辺の宅地並みに騰貴して、その値上がり益が当該農地の資産価値の中に化体していることに着目して導入されたものであるから(最高裁昭和52年(オ)第773号同55年1月22日第三小法廷判決・裁判集民事129号53頁参照)、宅地並み課税の税負担は、値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきものと解される。賃貸借契約が有償契約であることからみても、小作料は農地の使用収益の対価であって、小作農は、農地を農地としてのみ使用し得るにすぎず、宅地として使用することができないのであるから、宅地並みの資産を維持するための経費を小作料に転嫁し得る理由はないというべきである。

ウ もっとも、農地所有者が宅地並み課税による税負担を小作料に転嫁することができないとすると、農地所有者は小作料を上回る税を負担しつつ当該農地を小作農に利用させなければならないという不利益を受けることになる。しかし、宅地並み課税の制度目的には宅地の供給を促進することが含まれているのであるから、農地所有者が宅地並み課税によって受ける上記の不利益は、当該農地の賃貸借契約を解約し、これを宅地に転用した上、宅地として利用して相応の収益を挙げることによって解消することが予定されているのである。また、賃貸借契約の解約後に当該農地を含む区域について生産緑地地区の指定があったときは、宅地並み課税を免れることができるから、農地所有者は、これによっても不利益を解消することができる。そして、当該農地の賃貸借契約について合意解約ができない場合には、農地所有者は、具体的な転用計画があるときには法20条2項2号に該当するものとして、あるいは当該農地が優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である市街化区域内にあることや逆ざや現象が生じていることをもって同項5号に該当するものとして、解約について知事の許可(同条1項)を申請し、具体的事案に応じた適正な離作料の支払を条件とした知事の許可を得て(同条4項。平成12年農林水産省令第5号による改正前の農地法施行規則14条1項7号参照)、解約を申し入れることができるものと解される(民法617条)。 農地所有者には宅地並み課税による不利益を解消する方法として、上記のとおりの方途が存在するのに対し、宅地並み課税の税負担を小作料に転嫁した場合には、小作農にはその負担を解消する方法が存在せず、当該農地からの農業収益によって小作料を賄うこともできないことから、小作農が離農を余儀なくされたり小作料不払により契約を解除されたりするという事態をも生じ兼ねないのであって、小作農に対して著しい不利益を与える結果を招くおそれがあるというべきである。

(2) 以上説示したところからすれば、小作地に対して宅地並み課税がされたことによって固定資産税等の額が増加したことは、法23条1項に規定する「経済事情の変動」には該当せず、それを理由として小作料の増額を請求することはできないものと解するのが相当である。これに反し、農地所有者が宅地並み課税による固定資産税等の額の増加を理由として小作料の増額を請求した事案において、小作料の増額を認めた原審の判断を正当なものとして是認した最高裁昭和58年(オ)第1303号同59年3月8日第一小法廷判決は、変更すべきものである。」

地主の対応策

それでは、逆ザヤ現象が生じている場合、地主はどのようにすればよいでしょうか?

1 賃貸借契約の解約

 農地所有者は、知事の許可を申請し、適正な利作料の支払を条件とした知事の許可を得て、解約の申入れをすることが考えられます。 この点、上記最高裁判決は、「農地所有者は、具体的な転用計画があるときには法20条2項2号に該当するものとして、あるいは当該農地が優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である市街化区域内にあることや逆ざや現象が生じていることをもって同項5号に該当するものとして、解約について知事の許可(同条1項)を申請し、具体的事案に応じた適正な離作料の支払を条件とした知事の許可を得て(同条4項。平成12年農林水産省令第5号による改正前の農地法施行規則14条1項7号参照)、解約を申し入れることができるものと解される(民法617条)。」と判示しています。

2 小作人と土地で分け合う

 当該農地のうち小作権割合相当分を小作人が取得し、その余の部分を所有者が小作人から返還してもらう方法です。

 農地については農地法が適用されますので、通常の借地とは異なり、農地法の検討が必要です。

(弁護士 井上元)

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