賃貸建物と看板の設置

問題の所在

 商業ビルにおいて、テナントは建物の外壁等に看板等の広告物を設置することが多く、看板等の設置契約が別途締結されていることも多いと思われます。

 それでは、当該建物が第三者に売却された場合、賃借人は、看板等の設置を新所有者に対抗することができるのでしょうか?

 逆に言うと、新所有者は賃借人に対し、看板等の撤去を請求することができるのでしょうか?

 看板等の設置が建物賃貸借契約の範囲内のものであれば、借地借家法31条により、賃借人は新所有者に対抗することができますが、通常の場合、看板等の設置個所は建物の外壁等の一部に過ぎず、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するもの言えないため(最高裁昭和4262日判決参照)、建物賃貸借として同法による保護は受けられないとされています。

 新所有者が旧所有者から看板等の設置を認める義務が承継されず、新所有者から賃借人に対して看板等の撤去が請求されると、旧所有者の賃借人に対する債務不履行となりますので、通常の場合、旧所有者は新所有者に対して上記義務を承継させるものと思います。

 しかし、同義務が承継されず、新所有者から賃借人に対して、看板等の撤去が請求されると、看板等の設置が賃貸借契約の範囲か否かが問題となるのです。

権利濫用により新所有者の請求を否定した最高裁平成25年4月9日判決

 同様の事例で、最高裁平成25年4月9日判決は次のとおり判示して新所有者の賃借人に対する看板等の撤去請求は権利の濫用に当たるとしました。尚、上告人を賃借人、被上告人を新所有者と言い換えます。

「本件看板等は、本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており、本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたということができる。賃借人において本件看板等を撤去せざるを得ないこととなると、本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり、その営業の継続は著しく困難となることが明らかであって、賃借人には本件看板等を利用する強い必要性がある。

 他方、上記売買契約書の記載や、本件看板等の位置などからすると、本件看板等の設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは、新所有者において十分知り得たものということができる。また、新所有者に本件看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも、本件看板等が存在することにより新所有者の本件建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。

 そうすると、上記の事情の下においては、新所有者が賃借人に対して本件看板等の撤去を求めることは、権利の濫用に当たるというべきである。」

看板等の設置が賃貸借契約の範囲と考えられる場合

 借地借家法31条に関して田原睦夫裁判官の補足意見が付されていますのでご紹介します。

「多数のテナントが入っているビル等において、例えば1階のホールにテナント名を表示した看板が掲げられていたり、各テナントの共用部分の廊下の壁面にテナント名を表示することができ、あるいは、ビルに入居するテナントを表示する外部看板が設置され、テナントは別途の負担なくその看板にテナント名を表示することができる場合や、また多数の飲食店が入居する雑居ビルで、共用の廊下や階段に特別の負担なく各店舗の看板が設置されているような場合には、それら看板への表示は、当該建物賃貸借契約書に明示されていなくても、同賃貸借契約の内容をなしているものということができる。

 従って、借家人が同条により第三取得者に対して借家権を対抗することができる場合には、上記の看板等に表示する権利も当然に対抗することができるものというべきであって、それらの看板等が借家人の独立の占有部分に存しないとの一事をもって同条の適用を否定する原判決の解釈には賛同することはできない。

 なお、借家人の看板等の設置につき別個の契約がなされていたり、当該借家人が他のテナントとは異なる看板を設置していて、当該看板の設置が建物の賃貸借契約の内容に含まれないと解されるような場合には、同条の保護の対象外であることは言うまでもない。」

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

大阪弁護士会所属(1988.4 登録、日弁連登録番号:20771)
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