賃貸者契約締結に至らなかった場合の賃貸予定者の責任①

契約締結上の過失の理論

 賃貸予定者と賃借予定者が賃貸借契約の交渉を始めたとしても、契約締結までは、いつでも交渉を打ち切ることができるのが原則であり、交渉のために費やした費用は各自で負担しなければなりません。

 しかし、契約成立に向けた交渉の結果、当事者の一方が相手方に対し契約の成立について強い信頼を与えたにもかかわらず、この信頼を裏切って契約交渉を一方的に打ち切った場合は、信義則上、相手方が被った信頼利益を賠償すべきものとされており、「契約締結上の過失の理論」と呼ばれています。

賃貸予定者の損害賠償義務を認めた裁判例

 東京高裁平成14313日は、交渉が進展した後、賃貸予定者が他の者に賃借予定者よりも高額の賃料で賃貸した事案で損害賠償金50万円を認めました。

 大阪地裁平成5618日判決や京都地裁平成19102日判決などは、賃借予定者が日本国籍を有していなかったことを理由として契約締結を拒絶したとして損害賠償が認められています(前者で慰謝料20万円及び弁護士費用5万円等、後者で慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)。

 東京地裁平成6628日判決は、賃貸予定者は、建物賃貸借契約の締結を再三にわたり一方的に延期した上、曖昧な態度を取り続けたとして約180万円の損害賠償を認めています(過失相殺4割、慰謝料は認めず)。

 静岡地裁平成8617日判決は、店舗賃貸借契約の賃貸人と賃借人との間に、新築店舗建物を目的とする賃貸借契約の締結をするとの協定が成立し、従前の店舗建物が収去されたが、結局、新築店舗建物を目的とする賃貸借契約の締結がなされなかった事案で、3000万円以上の損害賠償を認めました。

 神戸地裁尼崎支部平成10622日判決は、ビル賃貸借契約の締結の拒否が契約締結上の過失に当たるとして約300万円の損害賠償を認めました。

賃貸予定者の損害賠償義務を否定した裁判例

 東京地裁平成8年5月15日判決は、賃借予定者は、もともと実力的には駅ビルに常設の三店舗を出店するほどの力はないにもかかわらず、賃貸予定者と賃借予定者の代表者が個人的な癒着関係にあったことから入居決定通知がされるに至ったものと解さざるを得ず、代表取締役といえども、その個人的な癒着関係から顧客を特別に優遇するようなことが許されないのはいうまでもないのであって、仮に賃借予定者が賃貸予定者の言動を信頼して行動し、その後の出店拒否により損害を被ったとしても、そのような信頼はもともと法の保護すべきものに値しないとして、賃貸予定者の責任を認めませんでした。

コメント

 「契約締結上の過失の理論」は、信頼を与えた一方当事者が、信頼を裏切って交渉を一方的に打ち切った場合に損害賠償責任が認められる理論です。

 賃貸予定者としては、賃貸借の交渉を行うに際しては、一般論として誠実に交渉をしなければならないということですが、具体的には、「安請け合いはしない」、「ダメなことはダメとはっきり言う」ことが大事ではないでしょうか。

(弁護士 井上元)

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