建物賃貸借契約の条項が消費者契約法により削除された事例

建物賃貸借契約についても消費者契約法が適用される場合、同法に違反する条項については無効とされることになります。

適格消費者団体であるが、不動産業者に対し、次のとおり、不動産業者が使用する 「建物賃貸借契約書」中の各条項について、消費者契約法第9条第1号及び第10条に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして削除を求め、不動産業者がこれに応じた事例がありますのでご紹介します。

賃貸借契約書を作成する際、消費者契約法にもご注意ください。

適格消費者団体の主張

違約金条項

無催告解除がなされた際に、賃借人が賃貸人に対し、賃料等1か月分相当額の違約金と「賃貸人が被った損害」賠償額を支払わなければならないとする条項のうち、「賃貸人が被った損害」は消費者契約法第9条第1号が規定する事業者に生ずべき 「平均的損害の額」と一致ないし近しい金額になると解されるところ、これに加えて違約金を課すのは、「平均的損害の額」に加えて違約金を課すものといえるから、賃料等1か月分相当額の違約金を定める部分は、消費者契約法第9条第1号が規定する「当該超える部分」に該当して無効である。また、上記条項では、賃借人は、帰責事由がない場合にもなお損害賠償責任を負うこととされており、民法第415条第1項又は民法の一般的法理と比較して消費者の義務を加重するものであることは明らかであり、また、賃借人はいかなる事由があろうとも損害賠償義務を負うものとされ賃借人の被る不利益は甚大であるから、消費者の利益を一方的に害することも明らかであり、消費者契約法第10条に該当して無効となる。

解除事由

①賃借人が賃料等の支払を1か月以上怠ったとき、②賃借人が賃料等の支払をしばしば遅延することにより、信頼関係を維持することが困難であると賃貸人が判断したとき又は③賃借人が破産の宣告、強制執行、銀行取引停止、刑事事件等その他著しく社会的信用を失墜したときに賃貸人が無催告解除ができる条項は、いずれの解除事由についても、賃貸人にその契約関係を一方的に終了させる権限を与えるものであり、民法第541 条又は民法の一般的な法理と比較して、賃借人の権利を制限するものであり、また、解除事由に当たる債務不履行行為を行うことで、賃貸人から解除権を行使される地位に立たされるという点で、賃借人の義務を加重するものといえる。次に、①については、一度支払を忘れただけで生活の基盤たる住居を失うことになり、賃借人の受ける不利益は甚大かつ深刻であるのに対し、これが削除されることで賃貸人が被る不利益は軽微であることから、②については、信頼関係 破壊の有無を賃貸人が判断するとする点で、賃貸人の評価根拠事実の主張立証責任を免除する一方、賃借人の評価障がい事実の主張の機会が実質的に奪いとられることとなり不均衡であることから、また、③については、このうち「破産の宣告」、「強制執行」、「銀行取引停止」は、仮にこれらの事情が発生したとしても賃料がきちんと支払われることも十分にあり得ること等により、これを無効としても賃貸人に殊更に不利益を被らせるものでなく、「刑事処分」については、その文言が抽象的であり、解除により住居を失う賃借人の被る不利益が甚大であることを考えると均衡を失すること等から、各解除事由は民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといえ、消費者契約法第10条により無効となる。

退去時のハウスクリーニング

退去時のハウスクリーニングは借主負担とし、敷金からこれを控除するとの条項は、民法第598条、第616条又は民法の一般的な法理と比較して、賃借人の義務を加重するものといえる。また、賃貸人と賃借人との間の情報量及び交渉力に格差があることを踏まえると、重要事項説明書の別表にはハウスクリーニングの単価表示がなされているものの契約書を一見して理解できるほど明確な記載とはいえない点や、通常であれば賃貸人が負担すべきものを賃借人の負担としていることの表示を欠いている点で、当該条項の記載方法・内容は公正さを欠いており、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといえ、消費者契約法第10条により無効となる。

消費者契約法

9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、 当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額 を超えるもの  当該超える部分

10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

出典

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

弁護士 井上元(いのうえもと) OSAKA ベーシック法律事務所

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