共有物分割に際してローン(担保権)はどのように処理されるのでしょうか?

ローン(担保権)のついている共有不動産についての共有物分割は行われますが、ローン(担保権)の処理については、現物分割、賠償分割(全面的価格賠償による分割)、競売により異なりますので、それぞれの場合に分けて説明します。

訴えの適法性

離婚における財産分与については、夫婦共有財産である不動産に時価を超える住宅ローン(抵当権)がついていると、当該不動産は財産分与の対象から外されます。
これに対し、共有物分割においては、共有不動産に抵当権等の担保権が設定されている場合であっても、当該不動産についての共有物分割請求は権利濫用に当たらず、訴えの利益を欠くこともないと解されています。

現物分割

XとYが持分各1/2の割合で共有している土地につき、Yの持分についてYの債権者Aの抵当権が設定されていたところ、x土地とy土地に分割し、Xがx土地を、Yがy土地を取得した場合、本件土地に設定されていたAの抵当権はどうなるのでしょうか?
この点、裁判例では、抵当権設定者が分割により取得した部分に抵当権が集中しないとされています。ただし、大阪地判平成4・4・24判時1449号115頁は、抵当権者AはYの取得部分が確定したときは抵当権もその部分に集中することを黙示の条件として抵当権を設定したとみるのが相当であるとしています。
具体的には、x土地とy土地に分割・分筆され(X持分、Y持分各1/2)、x土地のY持分とy土地のX持分が交換され、Xがx土地を、Yがy土地を単独で所有することになりますが、x土地、y土地の各1/2にAの抵当権が残ることになります。
このように、Xが現物分割を求めても、Aの抵当権が残ることに留意してください。

賠償分割(全面的価格賠償による分割)

AとBの共有不動産にローン(担保権)が設定されている場合、全面的価格賠償によりAからBに賠償金を支払わせてAに取得させる場合、当該不動産に設定されたローン(担保権)はどのように処理されるのでしょうか?この問題については、当該ローンの債務者が誰かによって処理が異なってきます。

取得者A側を債務者とするローンの場合

取得者AもしくはA側の者を債務者とするローンの場合、この債務はAが負うべきものなので、AがBに対して支払う賠償金から控除されません。

非取得者B側を債務者とするローンの場合

非取得者BもしくはB側の者を債務者とするローン(担保権)の場合、全面的価格賠償によりAがBに対して賠償金を支払った後にローン(担保権)が実行されるとAは損害を受けてしまします。Aがローンを弁済するとB側に対して求償権を行使することができますが、B側に資力がないと回収できません。
したがって、AがBに対して支払うべき賠償金の算定に際して、Bによる延滞のリスクを考慮して減額すべきか否かが問題となりますが、裁判例では、債務を評価額から控除するものと控除しないものがあり、事案によって調整が図られていると言えます。

取得者Aと非取得者B側の双方を債務者とするローンの場合

上記と同様、事案によって調整が図られるかと思われます。

離婚財産分与に類する場合

夫婦もしくは元夫婦間における共有物分割において、物件取得の際に住宅ローンを組んで購入し、分割時にもローンが残っていることも多いと思われます。通常、離婚の際の財産分与として処理されますが、オーバーローンの場合や共有者が夫婦ではなく一方が配偶者の親族である場合などの場合には財産分与で処理されません。
財産分与で処理されなかった共有物についても共有物分割請求訴訟では分割されることになりますが、債務の控除の有無については、上記と同様、事案によって調整が図られるかと思われます。

競売分割

共有物が競売に付された場合、抵当権等は消滅するとする見解(削除説)と適用されず抵当権等は競売による取得者が引き受けるとする見解(引受説)の争いがありましたが、最判平成24・2・7集民240号1頁が、共有物分割による競売につき削除説(法59条準用)を前提に無剰余措置(法63条準用)を認めたため、現在の実務では削除説により運用されており、競売の結果、抵当権等は消滅します。また、無剰余の場合には競売手続は取り消されます。
それでは、例えば、AとBの共有物件(持分各1/2)の全体に、Bを主債務者、Aを物上保証人とする債務を被担保債権とする抵当権が設定されており、売却価格2000万円、被担保債務1000万円である場合、AとBに対する割り付けはどのようになるのでしょうか?
民法392条1項では「債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。」と規定されています。
この問題につき、①1000万円を債権者に交付して残った1000万円は、主債務者と保証人に各自500万円が交付されるとする見解と、②主債務者の持分1000万円から控除され、残った1000万円は、全額、保証人に交付されるとする見解があります。
この問題について共有物分割を命じる裁判所は判断せず、執行裁判所が判断することになります。執行裁判所が判断した裁判例としては、①の見解と②の見解に分かれています。実務では概ね②の見解により運用されていると思われますが、各執行裁判所に確認すべきと思います。

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