全面的価格賠償はどのような場合に認められるのですか?
全面的価格賠償による分割が認められるべき要件として、最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁は、特段の事情(相当性と実質的公平性)を要するとしています。
最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁
最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁は、全面的価格賠償が認められるべき要件について詳細に判示しています。そして、その後の裁判例は、この最高裁判決が示した要件に従って判断しています。
「共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、~当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。」
全面的価格倍賞が認められる「特段の事情」
上記最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁が示す全面的価格倍賞が認められるために必要な「特段の事情」の考慮要素である相当性と実質的公平性を整理すると次のようになります。
相当性
当該共有物を特定の者に取得させるのが相当であると認められることが必要であり、これを判断するためには次の要素が考慮されるべきとします。
- 共有物の性質・形状
- 共有関係の発生原因
- 共有者の数・持分の割合
- 共有物の利用状況・分割された場合の経済的価値
- 分割方法についての共有者の希望・その合理性の有無
- その他
実質的公平性
他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められることが必要であり、これを判断するためには次の要素が考慮されるべきとします。
- 共有物の価格が適正に評価されていること
- 共有物を取得する者に賠償金の支払能力があること
留意点
全面的価格賠償を命じることができるのは、上記最判が示す「特段の事情」が必要ですが、当然、取得する者に適正な評価額を支払う意思があることが前提です。この者に適正な評価額を支払う意思がなければ、裁判所は全面的価格賠償による分割を命じることはできません。
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