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全面的価格賠償による分割

全面的価格賠償とは、例えば、AとBが共有する1筆の土地につき、Aに土地の全部を取得させ、AからBにお金を払わせる方法であり、最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)で認められるようになりました。

全面的価格賠償が採用されるべき「特段の事情」を認めたもの

全面的価格賠償が認められるためには上記の最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)が、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる「特段の事情」が存することが必要であるとしています。

「特段の事情」

  1. 次の事情により特定の者に取得させるのが相当であると認められること
    • 当該共有物の性質及び形状
    • 共有関係の発生原因
    • 共有者の数及び持分の割合
    • 共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値
    • 分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無
  2. 価格が適正に評価されること
  3. 当該共有物を取得する者に支払能力があること

この「特段の事情」がどのような場合に認められるのか裁判例を見てみましょう。

東京地裁平成23年12月9日(平成22年(ワ)2969号)

「(1)本件建物は、Aの代からAが一部を居住用建物として利用するほか、アパートとして賃貸されていたところ、現在、被告Y2が本件建物に居住し、本件建物の管理に当たっていることは上記○○のとおりである。そして、後記2で認定、判断するとおり、被告Y2のこうした占有は他の共有者である被告Y1の承諾、すなわち使用貸借契約に基づくものと認められる上、被告Y2は高齢であり、専ら本件建物から得られる賃料により生活していることがうかがわれる。したがって、原告の共有持分の財産的価値が侵害されることなく本件建物の上記現状を継続することができる分割方法が存在するのであれば、そのような分割方法が最も望ましいというべきである。
(2)この観点から検討するに、被告らは、被告Y2の上記事情を踏まえれば、本件建物については、被告Y2が居住する部分を区分所有の対象として被告Y1に取得させる現物分割が相当である旨主張する。そして、被告Y2が居住する部分は別紙図面の斜線部分であるところ、確かに、この部分は一棟の建物の一部であるものの、賃借人に賃貸されている部分と壁で明確に区切られているほか、実際にも、賃借人が居住する部分と別個独立のものとして利用されていると認められる。
しかしながら、そもそも、本件建物は借地権付建物である上、上記分割によるときは、被告Y2の専有部分以外の建物部分(すなわち、賃貸人に賃貸している部分)は原告が取得することになるから、当該部分から得られる賃料についても原告に帰属すると解することが素直な理解というべきであるところ、被告Y2が、本件において、原告の持分割合に応じた賃料相当額の不当利得返還請求に対しても、Aとの合意等を理由として拒絶し、強く争っていることに照らせば、仮に上記分割によったとしても、原告との間で将来にわたり本件建物に生じた賃料を巡り紛争が生じることは避け難く、ひいては原告の共有持分の価値が保全されない結果となるおそれがあるといわざるを得ず、少なくともこの点からしても、上記分割は望ましいとは認め難い。
また、被告Y2に本件建物の所有権を全部取得させ、原告の持分相当額について代償金を支払わせるという全面的価額賠償の方法についてみても、原告の持分割合等に照らせばその賠償金の額は高額のものとならざるを得ないところ、そもそも被告らは原告に対する金銭の支払自体を強く拒絶している上、本件全証拠を総合しても、被告Y1にこのような賠償金の支払能力があるとは認めるに足りないことに照らせば、上記方法も相当とはいえない。
(3)そうすると、本件建物の分割方法としては、原告が求める全面的価額賠償の方法による分割か、競売による分割のいずれかによらざるを得ないというべきである。このような結果が被告Y2にとって望ましいものではないことは上記(1)のとおりであるが、他面、原告も財産権である本件建物の持分5分の4を有している上、後記2で認定、判断するとおり被告Y2の占有は被告Y1からの使用貸借に基づくものにすぎないと認められることに照らせば、やむを得ないといわざるを得ない。
そして、原告は全面的価額賠償の方法による場合の被告Y1に対する代償金として、710万円が相当である旨主張しているところ、本件建物は昭和37年に新築された借地権付建物である上、被告Y1の共有持分5分の1に関する平成21年度の固定資産税評価額が129万7500円であったと認められること等を踏まえれば、仮に本件建物を競売に付し、実際に売却することができたとしても、被告Y1がその持分に相当する額として取得する金額が上記金額を超えるであろうと認めることには疑問が残るといわざるを得ない。他方、原告は、他の共有者であったE、F及びDからそれぞれ代金710万円を支払い、その共有持分を買い取ったと認められ、本件全証拠を総合しても、被告Y1の共有持分5分の1の価額として上記金額が相当でないとか、原告の上記賠償金の支払能力に疑義を差し挟むに足りる証拠はない。
(2)以上を総合すれば、本件建物の分割方法としては、結局、原告に全部その所有権を取得させ、共有者である被告Y1に対しては賠償金として710万円の支払を命じる方法によらざるを得ないというべきである。」

東京地裁平成19年6月29日判決(平成18年(ワ)17556号)

「原告は、本件共有物の取得を希望しておらず、被告が全面的価格賠償分割の方法で本件共有物を取得することに異議はない。」

東京地裁平成19年6月25日判決(平成18年(ワ)17441号)

「本件建物の性質、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分割合、利用状況及び分割方法についての原告及び被告らの希望等の諸事情を総合すれば、本件建物は現物分割をすることが不可能であり、本件建物の取得に関する原告の希望には合理性があるということができ、本件建物を原告に取得させるのが相当である。」
「被告らは競売による代金分割を希望し、その理由として本件建物の所有権を取得する機会を与えるべきであると主張する。しかしながら、被告らには本件建物を必要とする事情が少ない上、競売によって本件敷地の利用権を主張することが困難となるから、このような被告らの希望に合理性を認め難い。」

東京地裁平成17年6月16日判決(平成15年(ワ)19507号)

「本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存するか否かをみるに、前記認定の事実関係によれば、本件不動産は、A、B及び被告がこれを取得した昭和49年当時から(なお、本件土地については、Aが昭和24年に売買により所有権を取得していた。)、一体として被告を含む家族の住居として利用され、昭和63年12月以降はBと被告ら夫婦及び子供2人が居住し、B死亡後は被告ら家族が居住していること、これに対し、原告は、不動産業者として売却処分して利益を挙げるために本件不動産のC持分を競落取得したものであり、本件不動産を占有使用していないこと、本件建物は、鉄筋コンクリート造陸屋根2階建て建物であり、本件土地の敷地上目一杯に建てられ、1階部分の空スペースは駐車場として、2階部分は被告ら家族の居宅としてそれぞれ利用されており、これらを切り離して現物分割をすれば、被告ら家族の共同生活が脅かされることになるなど、本件不動産は現物分割に適さないこと、原告は、本件不動産の分割方法として、競売による分割を希望しているのに対し、被告は、自らが本件不動産を取得する全面的価格賠償の方法による分割を希望していること、原告が本件不動産の持分を取得した経緯等の諸事情を考慮すると、本件不動産を被告に取得させることが相当でないとはいえないし、被告の支払能力のいかんによっては、本件不動産の適正な評価額に従って原告にその持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しないものと考えられる。」

東京地裁平成17年3月18日判決(平成12年(ワ)21327号)

「本件建物は原告らの所有であり、隣接する本件土地2は、被告Bと原告らの共有であるが、Dと被告Bとの間では、Dが被告Bに代償金を支払ってその持分を取得することが合意されており、本件建物は、被告会社が以前使用していたが、現在では他所に移転して本件建物を使用しておらず、したがって、原告らが本件土地1を取得すれば、本件土地2及び本件建物と併せて本件土地1を有効に利用することが期待できるほか、原告らも、全面的価格賠償の方法による分割を希望しており、これらの事情に照らせば、本件土地1を原告らに取得させることには一応の合理性があると認められる。」

東京地平成16年6月17日判決(平成15年(ワ)27257号)

「本件1土地の分割方法を検討するに、まず、原告は、現物分割として、本件6土地とその余の土地に分割し、本件6土地を原告の単独所有とすることを求めるが、このような分割をすると、原告にとっては、その所有の本件3土地と一体的に整形な土地として使用することができるため、極めて有利であるが、その反面、その余の土地が極めて不整形な土地となり、著しくその使用価値を減じることになってしまい、分割当事者間の公平を害することになるというべきである。
そして、本件1土地は、それ自体では別紙図面のとおり幅1.2メートル、長さ7.76メートルの通路状の土地によって公道に接するにすぎず、このままでは建物を建築することができず、同土地を利用するためには、同土地に隣接する本件4土地と併せて利用するか、少なくとも、上記通路状の土地に接する本件4土地の一部(西側部分)を公道へ通じる道路(の一部)として使用する必要がある。これに対し、原告は、本件1土地の5分の1の持分を有するにすぎず、その所有の本件3土地を使用するために、本件7土地を使用する必要性は存しない。そうすると、本件1土地は、これを有効に利用するためには、本件4土地の所有者(共有者)である被告らの共有とするのが相当であるといえる。また、本件1土地と同一の共有関係にあった同土地上に存する本件2建物は、被告らの価格賠償による共有物分割請求に原告が応じて被告らの共有になったのであり、その敷地である本件1土地についても同一の共有関係にするのが相当である」

東京地裁平成16年3月11日判決(平成15年(ワ)2988号)

「本件建物は、昭和56年の新築時より、原告が49分の39、被告が49分の10の各持分割合で共有しているが、被告が新築時から現在まで本件建物に居住し続けている。そして、共有物分割の方法について、被告は、いわゆる全面的価格賠償の方法により自己の単独所有とすることを希望しており、その妻の金融資産約2000万円を価格賠償金の支払に充てる予定であることや、被告が本件建物と同じAビルにある302号室や303号室の共有持分を有していることなどから見て、その支払能力に問題がないものと認める。原告も賠償価格が適正である限りは本件建物を被告の単独所有とすることに同意する意向を示している。したがって、本件においては、鑑定により適正に評価された本件建物の原告持分の価格を被告に賠償させることにより本件建物を被告の単独取得とすることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるから、現居住者である被告を単独所有者とする、いわゆる全面的価格賠償の方法により分割することが適当であるものと認める。」

東京地裁平成15年11月7日判決(平成13年(ワ)17241号)

「本件土地を現物分割した場合、被告が取得する土地の広さは2.27平方メートルに過ぎず、有効活用が困難である上、被告は、他の本件一画地について特に利害関係を有しないこと、原告が本件土地の持分権全部を取得した場合、既に取得している本件一画地のうちの原告所有地(略)と併せて利用することになれば、本件土地の利用価値は増大することに加え、原告が、本件訴え提起後、A、B及びCから本件土地の共有持分権等を購入した経緯からすれば、本件土地の分割に当たっては、原告に共有持分全部を取得させ、被告には、その持分割合に応じた代償金を取得させるのが相当である。」

東京地裁平成16年7月29日判決(平成14年(ワ)27699号)

「(1)前記1認定事実のとおり、被告は、本件舗装部分の分割譲渡を受けることが目的で、本件土地に占める本件舗装部分の面積の割合で持分を取得し、絶対多数を占める原告の同意を得ることなく、本件舗装部分に物理的変更を加え、本件敷地部分との間に金属フェンスを設置した。しかしフェンスの設置の仕方、本件土地の南側水路を越えるための通行方法(東側公道経由は迂遠であること)などから考えても、Aが無償で本件舗装部分を経由して公道に出ることを被告も是認していたものと推認される。
本訴における共有物分割につき、被告に本件舗装部分を取得させる方法による分割をすることは、本件売買契約の目的を実現する方法であり、したがって当時の被告の意思・利益に反するとは言えない。
被告が、事後的に、すなわち本件舗装部分を道路として利用した後で、開発許可が不要になったからといって、投下資本の負担を原告に求めるのは不公正であり、それどころか、被告は、Aに処分権がないことを充分知っていたのであるから、原告が、被告に対し、その所有権に基づき本件舗装部分の原状回復を求めたとしても、被告との関係で信義則に反することにはならないのであって、被告が投下した資本は、原告との関係では無に帰せられたとしてもやむを得ないし、もし原告が原状回復を求めれば、被告はさらに原状回復費用を負担せざるを得ない。
(2)しかしながら、共有物の性質・形状、共有に至る経緯、共有者の数、持分割合、共有物の利用状況など前記1認定の事実、ことに共有後被告が本件土地に、原告の意思に反して物理的変更を加えたこと、本件売買契約当時とは異なり、当事者がAと被告ではなく、原告と被告となったこと、原告は、訴状では、本件舗装部分を被告所有とする現物分割を求めていたが、本件土地が、本件舗装部分を経由せずに公道に出るには、東側土地を経由するなど迂遠であり、袋地に近い状態にあることを認識していなかったこと、被告は、原告の内容証明郵便による共有物分割協議の申入れに対しては、現況の維持を述べ、本訴においては舗装費用などの負担したことなどを述べ、現物分割に反対する意思を示したこと、仮に本件舗装部分を被告の所有とする分割をした場合に、前記現物分割では通行地役権の問題が生ずること、通行の可否を巡る将来の紛議を未然に防止する必要も想定できること、原告は、原状回復を求められるのに、求めておらず、そのことから原告が分割後も本件舗装部分を道路として使用するものと推認でき、その公共財的性質のため、全面的価格賠償の方法によっても、被告も当該部分を事実上通行することができること、いずれにしても原告が、原状回復を求めれば、被告は更に相当な金額の負担となったはずであること、仮に、前記見込みと異なり、原告が事後に原状回復をした場合、被告は舗装道路使用という所期目的を達成することは困難になるが、既に開発許可を断念しており、原告も舗装道路としての利便性は得られないこと、その場合、被告は本来負担すべき原状回復費用を免れると解する余地のあることなどを総合考慮すべきである。
(3)以上によれば、前記(1)又は原告が訴状で主張した現物分割は合理的ではなく、また、売買実例(本件売買契約)のある舗装道路部分については、いわゆる全面的価格賠償の余地が充分認められるのであって、競売は必ずしも合理的とはいえない。そうすると、本件土地を現物分割するよりも、原告の単独所有とし、被告がその対価を取得する(全面的価格賠償の)方法により共有物分割をすることが最も適切であるといえ、その場合、賠償金は現実の売買価格である68万3200円とするのが相当である。」

全面的価格賠償が採用されるべき「特段の事情」を否定したもの

東京地裁平成27年12月22日判決(平成27年(ワ)10087号)

「本件土地上には、本件建物が、その敷地いっぱいに建てられていることから、本件土地建物を現物分割することは不可能といえる。
原告らは、本件土地建物の時価に基づいて取得価格が算定されるのであれば、被告の全面的価格賠償による分割でかまわない。被告が相当額を払えないのであれば、第三者への任意売却や競売を希望する。
被告は、全面的価格賠償によることを主張しており、賠償価格は、被告がBから相続した金融資産2323万5267円の範囲内の1100万円程度で、原告ら各自の持分を買い取ること(合計2200万円程度)を希望している。
たしかに、Bの遺言によれば、Bは、本件土地建物を被告に取得させることを強く希望していたことが窺えるが、全面的価格賠償の方法による分割をすることが許されるためには、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存在することを要するところ(最高裁平成8年10月31日)、上記○○のとおり、本件土地建物の適正価格は、相場価格が7140万円で、少なくとも相続税路線価を基礎とする5716万8947円は下らないものと解され、すると、原告ら各自の持分の適正価格は、少なくとも相続税路線価の4分の1である1400万円以上で、相場としては1785万円であるところ、被告の提示は、Bから相続した金融資産の範囲内の1100万円であり、被告の固有資産からの持出しを希望していないことからすれば、本件においては、被告が希望する賠償価格では、共有者間の実質的公平を害する恐れがあるから、特段の事情の存在が認められないといわざるをえない。」

東京地裁平成26年8月27日判決(平成25年(ワ)19064号)

「原告らは、原告らには、本件土地建物を取得すべき必要性が存するとし、現在、原告X1は、介護施設において生活しているが、本件土地建物に戻ることを心の拠り所としているなどと主張する。
しかし、前記○○のとおり、原告X1は、満90歳と高齢で、原告X2の住所地から自動車で15分程度の距離にある介護施設に入所しており、一人で本件土地建物に戻ることは、およそ考えられない。原告X2は、本人尋問において、そのときにならないと分からないが、誰かが一緒に住むことも可能だと思うとなどと供述するものの、具体性はなく、原告X1が本件土地建物に戻る現実的な可能性は、認められない。
原告X2にとっても、本件土地建物は、50年近く前(昭和42年)に離れた実家であるにすぎず、したがって、原告らに、本件土地建物を取得する必要性があるとはいい難い。
また、証拠○○によれば、Aの遺産に関する遺産分割協議(以下「本件遺産分割」)は、平成24年4月16日に成立しているところ、その際の遺産目録には、本件土地建物は含まれていない。
その理由について、原告X2は、本人尋問において、忘れたなどと曖昧な供述をする。しかし、同時に、原告X2は、本件遺産分割協議成立後、本件土地建物に関する前記○○の登記手続を依頼するため司法書士を訪問したが、その際、介護施設に入所する前の原告X1と同行した旨供述するところ、この供述を前提とすれば、司法書士を訪ねたのは、原告X1が介護施設に入所する平成24年6月以前で、本件遺産分割協議成立から間もない時期ということになるから、本件遺産分割協議の際、本件土地建物を忘れたという原告X2の供述は、にわかに信用できない。
原告らが、本件遺産分割協議の際、本件土地建物を明示の対象としなかった理由は不明であるが、原告らの主張するとおり、本件土地建物それ自体が原告らにとって重要であれば、本件遺産分割協議において具体的に取り決めをすることを求めないとは考え難い。そうすると、財産的価値でなく本件土地建物そのものが重要であるという原告らの主張は、採用できない。
このように、本件土地建物を原告らに取得させるのが相当といえるか否かは疑問である。
5確かに、持分の分布(原告ら30分の29、被告30分の1)や共有関係が発生した事情からすれば、本件土地建物を原告らが取得することが自然といえなくはないが、原告X2が、本人尋問において、本件土地建物が競売にかけられた場合、必ず落札したいと供述していること等も考慮すれば、必ずしも全面的価格賠償による必要はなく、本件について、前記特段の事情は、認めるに足りないというべきである。したがって、本件土地建物の分割については、競売の方法によることが相当である。」

東京地裁平成16年10月26日判決(平成15年(ワ)25320号)

「なお、被告Y2が本件土地建物のすべてを取得する全面的価格賠償の方法については、甲9によればこれら不動産の固定資産税評価額は合計6123万9740円であるところ、被告Y2がその3分の2相当の金銭の支払能力を有することを示す的確な証拠がないので、これを採ることはできない(同被告は期日を重ねる中で他から金銭を借りるべく奔走したが、結局、3200万円ないし3300万円の話があったという程度であった)。」

東京地裁平成15年8月26日判決(平成15年(ワ)2295号)

「そうすると、被告が主張するように、仮に被告に本件土地建物を使用する必要があり、被告が本件建物に主観的価値を認めていてその取得を強く希望しているとしても、被告が全面的価格賠償の場合の支払額を用立てる可能性が極めて乏しく支払い能力がないというべきであるから、全面的価格賠償の方法によっても共有者間の実質的公平を害しない特段の事情があるとはいえない。よって、本件土地建物は、競売による代金分割によるのが相当である。」

東京地裁平成17年1月27日判決(平成16年(ワ)20935号)

「本件土地は、前記強制競売によって原告らが買い受けた別紙物件目録記載の建物(原告らの共有持分は各2分の1。)の敷地として、ともに買い受けた3筆の土地(原告らの共有持分は各2分の1)と一体のものとして使用されていることが認められるから、現物分割により、これを原告ら及び被告にその持分に応じてそれぞれ取得させることは相当ではないというべきである。
そこで、本件土地の分割方法について、全面的価格賠償の方法によるべきか、競売による売得金を配分する方法によるべきかを検討するに、本件土地の面積は非常に狭く(4.19平方メートル)、隣接地と独立して使用するには適さないところ、競売において第三者が本件土地を取得したときには、原告らと前記取得者との間で、本件建物の使用関係に付随して、新たな問題が生ずる可能性があること等に照らせば、原告らが本件土地につき被告との共有関係を解消して原告らのみでの共有を望むことは合理的であるといえる。」

賠償金額の算定例

東京地裁平成28年3月17日判決(平成26年(ワ)13210号)

「価格賠償は、共有者間での実質的公平を害さない形で、持分価格を適正に評価することで、競売手続を回避する手法であるとされる面がある以上、共有物の価格は、分割時における当該共有物の客観的交換価値に準拠して算出される必要がある。そして、この場合の価格は、民事執行法による売却に付されることを前提とする価格ではなく、取引価格を基準に評価すべきである。これによって、持分と賠償金との形式的等価性が確保されることになる。
実際に競売手続が行われる場合に予想される減価まで取り込んで持分価格を評価するのは、賠償を受ける共有者に取得させる金額の減額が、実質的公平を害する程度にまで及ぶおそれがあって相当ではない。」

東京地裁平成17年10月19日判決(平成17年(ワ)6749号)

「本件建物については、強制競売手続が実施され、不動産鑑定士による鑑定評価が行われているので、これを参考とすべきである。ただし、評価書は、強制競売手続における最低売却価格を算出するために作成しているものであるところ、賠償金の基礎となる価格は、時価と解すべきであるから、競売減価等をしない数値によるべきものと解される。」

被担保債権の額の控除について

不動産を全面的価格賠償により分割する場合、当該不動産に抵当権が設定されていることがあります。この場合、全面的価格賠償によりAがBの持分を取得し、Bにお金を支払うにあたり、どのような処理になるのでしょうか?
Aが、取得後、被担保債務を負担した場合、債務者に対する求償により処理すべきと思われますので、原則、当該抵当権の被担保債務は控除されるべきではありません。ただし、第三者を債務者とする抵当権が設定されており、回収不能であることが明らかな場合には考慮する必要があるかもしれません。

京都地裁平成22年3月31日判決(平成21年(ワ)909号)

上記の設例でいうと、当該抵当権の債務者が第三者Cであったケースであり、被担保債務は控除されることなく価格賠償の金額が決められました。
「当裁判所は、全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格について、本件根抵当権の被担保債権の額を控除すべきでないと考える。その理由は、次のとおりである。
すなわち、一般に、抵当権等の担保権が設定された不動産の取引において、その売買金額を決するに当たって、時価からその担保権の被担保債権額を控除した金額とすることが多いが、それは、当該被担保債権の債務者である売主が、その売買の後に被担保債権に係る債務を履行することを期待することができない状況にある、あるいは履行されないリスクが大きいからであって、担保権の存在自体によって当該不動産の時価そのものが減少するからではない。また、共有物分割を命ずる判決に基づく競売において、共有者に対し優先債権への配当後の剰余金を配当するのは、執行裁判所が換価条件を決定するに当たって、いわゆる消除主義によっているからであるが、消除主義によるのは、いわゆる引受主義によったのでは換価が円滑に進まないという手続運営上の要請によるところが大きいのに加え、優先債権の債務者が当該不動産の共有者でなければ、競売において優先債権への配当後の剰余金を配当された共有者は、その持分に応じて、前記債務者に対し、物上保証人に類似する立場に立つ者として、その債務を免れた限度で求償権を行使することができ、その債務者に資力があれば、この求償権を行使することにより、優先債権への配当前の当該不動産の持分の価格相当額を回収することができることから考えても、当該不動産を競売した場合の剰余金のみが当該不動産の価値を反映していることを意味するものではない。
このように考えると、共有物分割の対象となる不動産の価格を検討するに当たって、その不動産に設定されている被担保債権額をどのように考慮するかについては、第一に、その被担保債権に係る債務者の無資力のリスクの程度を検討すべきであり、考慮すべきリスクがあるとすれば、それを共有者の間でどのように負担させるのが公平であるかという点からの検討も必要であるというべきである。
これを本件についてみると、本件根抵当権の債務者はFであり、証拠○○及び弁論の全趣旨によれば、Fは、順調とはいえないまでも、本件根抵当権の被担保債権に係る債務の弁済を継続しており、直ちに無資力に陥る状況にあるとは認められない。また、Fが無資力になるリスクがあるとしても、Fは被告らの同族会社というべきものであって、そのリスクは被告らが負うのが公平であり、原告らに負わせるべきではない。
以上の検討により、全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格については、本件根抵当権の被担保債権の額を控除せず、上記○○のとおり、6678万8000円とすべきである。」

東京地裁平成18年6月15日判決(平成16年(ワ)14467号)

オーバーローンの状況にある共有建物の全面的価格賠償につき原告が建物について有する潜在的利益を考慮して100万円とした珍しい判決です。被担保債務の債務者は被告と思われ、そうであれば、被担保債務は控除されないはずです。しかし、本件では、離婚における財産分与と同種の利益状況にあるため、上記のような判決となりました。
「二被告の全面的価格賠償の主張の当否について
1本件建物の固定資産評価額は954万300円であり、被担保債権残額は2200万円を超えている。また、本件土地は被告、A子、B子の共有であり(争いがない)、その固定資産評価額は1563万1570円である。
本件建物の敷地利用権は使用貸借にすぎないものと考えられる(原告も特に争っていない)。なお付言すれば、本件の事実関係では法定地上権も成立しないと考えられる(最判平成6年12月20日民集48巻8号1470頁参照)。
そうすると、本件建物を競売した場合に原被告に分割する剰余金が生じるとは考えにくい(むしろ、かなりのローン債務が残存するものと考えられる)。
2さらに、本件建物にはA子、被告、B子、原告とA子の子らが居住しており、原告とA子は離婚しているし、原被告間にも熾烈な争いがあることは本件からも明らかであるから、原告がここに居住する可能性も現実問題としてはほとんどありえないと考えられる。
3以上のような事実関係の下では、本件建物の共有物分割の方法として全面的価格賠償によることは、価格賠償の金額が適性に評価され、被告がその資力を有する場合には、相当な方法であると考えられる。
4この点につき、原告は、全面的価格賠償に当たって基準とする本件建物の価格は、抵当権の被担保債権を控除しない本件建物の時価と考えるべきであると主張し、その根拠として、前記○○のとおり述べる。
しかし、右○○の主張については、本件建物の処分によって抵当権の被担保債権が消滅あるいは減少することを前提としているが、全面的価格賠償の場合についてはそのようなことはないし、また、右主張は、競売による代金分割の場合(前記のとおり原告に分割すべき剰余金も生じない)と比較して著しく不均衡であることからしても、採ることができない(なお、原告の主張する本件建物の価格〔3461万9256円〕を基準にその主張に基づいて計算すると、全面的価格賠償の金額〔1700万円を超える〕が原告主張の出費の金額〔1254万8000円〕を超えてしまうが、このことも、原告の主張自体の問題点を示すものと言えよう)。
むしろ、本件における利益状況は、A子を被告側の人間と考えるならば、被告主張のとおり、離婚財産分与の場合に近いのであり、その場合には、通常、不動産の時価から債務額を控除した残額が財産分与に当たって考慮されるにとどまり、オーバーローンの場合、ことに本件のように不動産を取得する側が債務をも全面的に負担する場合には、オーバーローンに係る不動産は財産分与に当たって考慮の対象とされないことを考慮すべきであろう。
そうすると、本件における全面的価格賠償の適正な金額は、前記の原告持分割合を前提として本件建物について原告が有するところの潜在的利益を総合的に考慮した金額とするほかないと思われるが、前記のとおり、原告がここに居住する可能性が現実問題としてはほとんどありえないことを考慮するならば、その金額が、被告主張の100万円を超えることはないものと解される。」

単独所有とすることは両者間の実質的公平を害する場合

東京地裁平成28年4月21日判決(平成27年(ワ)1116号)

相続した別荘につき、原告が全面的価格賠償により単独取得をもとめましたが、判決では「本件土地及び本件建物を原告被告いずれかの単独所有とすることは両者間の実質的公平を害するものであり、上記事実関係のもとで公平を維持するためには、本件土地及び本件建物について競売を命ずるほかない。」としました。

判決主文の問題

全面的価格賠償を判決で命じる場合、(1)○○の土地をAの所有とする、(2)BはAに対し○○の土地について所有権移転登記手続きをせよ、(3)AはBに対し金○○万円を支払え、との判決主文になります。
この判決によりAは所有権移転登記を受けることができます。しかし、Bは、Aが支払ってもらえなかったらAの財産を強制執行する必要があり、Aによる支払いが判決により担保されないという問題があります。
そこで、最高裁平成11年4月22日判決(集民193号159頁)の補足意見や大阪高裁平成11年4月23日判決は、所有権移転登記と賠償金の支払を引換給付することを命ずることができるとの判断をしています。
更に、東京地裁平成17年6月16日判決や札幌地裁平成11年7月29日判決は、(1)現物取得者が判決確定後6か月程度の一定期間内に対価を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得させ、(2)他方に対し現物取得者が単独所有権を取得したことを条件として持分移転登記手続を命じる、(3)現物取得者が6か月程度の一定期間内に価格賠償金を支払わない場合には共有不動産を競売に付す旨を命じています。
また、東京地裁平成19年4月26日判決は、第1次的に被告の、第2次的に原告の単独所有にするとしています。

大阪高裁平成11年4月23日判決(平成10年(ネ)1315号)

「本件不動産の分割については、右のような全面的価格賠償の方法によるべきところ、全面的価格賠償の方法により共有物を分割する裁判の主文において、他の共有者の共有持分を取得する共有者に賠償金の支払義務があることを確認するに止まらず、すすんで、申立てがないにもかかわらず、右共有者にその支払を命じて、他の共有者に金員給付の債務名義を反射的に取得させることは、共有物分割が共有関係を解消して新たな権利関係を形成するに過ぎないものとすれば、必ずしもその内容に包含されるものとは言いがたいが、右賠償金は他の共有持分を取得する対価ともいうべきであり、裁判の確定により、共有持分を取得する共有者において、無条件に共有物の所有者となることとの均衡上、賠償金の支払を即時に強制される状態に右共有者が置かれるのも、また公平に合致するというべきであり、これが共有物分割の内容となっているものと解することができる。なお、全面的価格賠償による共有物分割にあたって、賠償金の支払につき、期限を許与することや、分割払を命ずることは、賠償金の支払能力があることが右分割の条件となつていることから、許されないものと考える。
さらに、共有物分割の結果に伴う登記などの対抗要件の具備については、右にみた共有物分割の目的を考えると、共有物分割の内容ではなく、分割の結果の履行の問題に過ぎず、将来の請求としての申立てがないのに、これを命ずることは、家事審判規則49条と同様の規定をもたない共有物分割の手続にあっては、処分権主義に反するという考えも成り立ち得ないではない。しかしながら、共有物分割の内容として、裁判の主文において、賠償金の支払を命ずることができると解する以上は、同じ主文において、その反対給付となるべき対抗要件の具備の手続について、できるだけ履行を確保する手段を講ずることも、まだ許されるものと思料される(裁判により共有物の分割が形成されるものである以上、賠償金の支払がない時には、当該共有物を改めて競売に付して、その売得金の分配を命じることは、理論上は困難であると思科される。)。」

東京地裁平成17年6月16日判決(平成15年(ワ)19507号)

「裁判所が全面的価格賠償の方法により共有物の分割を命ずる場合、現物取得者が求める登記手続等については、同時履行の抗弁の有無にかかわらず、対価支払との引換給付を命ずることができると解するのが相当であり(最高裁平成11年4月22日第一小法廷判決における裁判官遠藤光男・同藤井正雄の補足意見参照、判例時報1675号76頁)、更に進んで、事案によっては、現物取得者が判決確定後6か月程度の一定期間内に対価を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得させることとし、かつ、他方に対し、現物取得者が単独所有権を取得したことを条件として持分移転登記手続を命じることが相当であり、かつ、現物取得者が6か月程度の一定期間内に価格賠償金を支払わない場合には、共有不動産を競売に付し、その売得金を共有者双方に対し、各持分の割合に応じて分割する旨の判決を言い渡すこともできると解するのが相当である(上記最高裁判決における裁判官遠藤光男の追加補足意見参照)。」

札幌地裁平成11年7月29日判決(平成9年(ワ)1918号)

「以上によれば、本件土地については、全面的価格賠償の方法によって原告に被告らの本件土地の持分全部を取得させることが相当であるが、他方、原告が被告らの持分割合に応じた価格賠償金の支払をしない場合には、被告らの利益が著しく害されることになることを考慮し、原告が本判決確定の日から6か月以内に被告らの本件土地の持分に相当する価格賠償金を各被告らに支払うことを条件として本件土地を原告の単独所有とすることとし、かつ、被告らに対し、原告が本件土地の単独所有権を取得したことを条件として持分移転登記手続を命じることが相当であり、かつ、原告が6か月以内に価格賠償金を支払わない場合には、本件土地を競売に付し、その売得金を原告及び被告らに対し、各持分の割合に応じて分割するのが相当である」。

東京地裁平成19年4月26日判決(平成18年(ワ)20202号)

「本件においては、第1次的に被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割をし、第2次的に原告らのみの共有とする全面的価格賠償の方法による分割をすることが相当であると認めるべき上記1にいう特段の事情があるということができる。被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割を優先するのは、本件土地がいわゆる先代の遺産であるところ、原告らがこれを第三者に売却して換金することを考えているのに対し、被告はその地上に建物を建てて居住したいと考えていることから、後者を優先させるのが相当と認めるからである。また、被告の単独所有とする全面的価格賠償の方法による分割のみならず、第2次的に原告らのみの共有とする全面的価格賠償の方法による分割をも相当とするのは、賠償金についての被告の支払能力に一抹の不安が残らないではなく、被告が賠償金を支払えない場合には、直ちに競売を命じるより、原告らにも本件土地を取得する機会を与えることが公平にかなうからである。そして、被告及び原告らが賠償金を支払うための期間としては、諸般の事情を考慮すると各1か月が相当である。」

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