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裁判による共有物分割

裁判における分割方法につき、民法258条2項では「共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」と規定されているのみです。
条文によると、裁判所が選択できる分割方法は、(1)現物分割と、(2)競売による分割だけになります。
尚、「競売による分割」は「代金分割」や「換価分割」と呼ばれることもありますが、用語として「代金分割」や「換価分割」は協議による任意売却も含まれますので、ここでは「競売による分割」と呼ぶことにします。
従来の判例は、上記条文通り、(1)現物分割と(2)競売による分割しか認めていませんでした。
しかし、その後、最高裁は判例を変更し、部分的価格賠償や更には全面的価格賠償をも認めるに至っています。
その結果、現在の裁判理論では、(1)現物分割(差額を調整する部分的価格賠償を含む)、(2)競売による分割、(3)全面的価格賠償の3つの方法が認められています。

現物分割

現物分割とは、言葉通り、現物で分割する方法です。例えば、AとBが共有する一筆の土地の現物分割として、A土地とB土地の2筆の土地に分筆して、AがA土地を、BがB土地を取得する方法です。
この場合、分割後のA土地とB土地が等価(面積ではなく価値)となる必要があります。
等価でない場合、差額につき金員を交付することになります。これを部分的価格賠償と言います。
また、現物分割については次のような分割も行うことができます。

(1) 一部の共有を存続させる分割

  • 最高裁昭和62年4月22日判決(民集41巻3号408頁)
  • 最高裁平成4年1月24日判決(集民164号25頁)

(2) 複数共有物の一括分割

  • 最高裁昭和45年11月6日判決(民集24巻12号1803頁)
  • 最高裁昭和62年4月22日判決(民集41巻3号408頁)

(3) 部分的価格賠償による方法(現物分割により価格に過不足が生じる場合には対価を支払わせて過不足を調整すること)

  • 最高裁昭和62年4月22日判決(民集41巻3号408頁)

最高裁昭和45年11月6日判決(民集24巻12号1803頁)

次のように判示して、建物3棟が一筆の土地上に建築されている事案において、土地を3分割し、各土地・建物を3人の単独所有とした原判決を維持しました。
「民法258条によつてなされる共有物のいわゆる現物分割は、本来は各個の共有物についての分割方法をいうものと解すべきであるが、数個の物であつても、たとえば、数個の建物が一筆の土地の上に建てられており外形上一団の建物とみられるときは、そのような数個の共有物を一括して、共有者がそれぞれその各個の物の単独所有権を取得する方法により分割することも現物分割の方法として許されるものと解するを相当とする。そうだとすれば、本件分割の対象は、一筆の土地およびその地上に存在する三棟の建物であるところ、原審の確定した事実によれば、右は、三個の建物ではあるが、右一筆の土地上に互に相密接して建設された一群の建物であり、外形上一団の建物とみられるものであるから、このような数個の建物は一括して分割の対象とすることを妨げないものというべきである。」

最高裁昭和62年4月22日判決(民集41巻3号408頁)

森林法186条が憲法に違反すると判断した裁判例ですが、分割方法について次のような判示をしています。
「民法258条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであり、また、分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、これらの不動産が外形上一団とみられるときはもとより、数か所に分かれて存在するときでも、右不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許されるものというべきところ、かかる場合においても、前示のような事態の生じるときは、右の過不足の調整をすることが許されるものと解すべきである(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁、昭和41年(オ)第648号同45年11月6日第二小法廷判決・民集24巻111号1803頁は、右と抵触する限度において、これを改める。)。また、共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。」

最高裁平成4年1月24日判決(集民164号25頁)

最高裁昭和62年4月22日判決(民集41巻3号408頁)を引用して次のように判示しました。
「多数の共有不動産について、民法258条により現物分割をする場合には、これらを一括して分割の対象とすることも許されること、また、共有者が多数である場合には、分割請求者の持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残す方法によることも許されることは、当審の判例(昭和59年(オ)第805号同62年4月22日大法廷判決・民集41巻3号408頁)の判示するところであり、その趣旨に徴すれば、分割請求をする原告が多数である場合においては、被告の持分の限度で現物を分割し、その余は原告らの共有として残す方法によることも許されると解するのが相当である。」

競売による分割

競売による分割とは、裁判所が競売を命じ、競売手続における代金をAとBに分配する方法です。
共有物分割請求訴訟における判決により、当然に競売手続が開始されるわけではなく、その判決を基に、当事者が、別途、競売申立をする必要があります。
競売申立については民事執行予納金を納める必要があります。競売による分割を求める場合にはこの点に留意してください。
平成29年10月時点における大阪地方裁判所の予納金は次のとおりです。

原則 90万円
現況調査を実施する地区が数ヶ所ある場合には、調査地区の数×90万円
一調査地区の固定資産評価額の合計が1億円を超える場合には、当該調査地区の数×180万円

全面的価格賠償

全面的価格賠償とは、例えば、AとBが共有する1筆の土地につき、Aに土地の全部を取得させ、AからBにお金を払わせる方法です。
最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)、最高裁平成8年10月31日判決(集民180号643頁)、最高裁平成8年10月31日判決(集民180号661頁)で認められ、その後、最高裁平成9年4月25日判決(集民183号365頁)、最高裁平成10年2月27日判決(集民187号207頁)、最高裁平成11年4月22日判決(集民193号159頁)でも認めています。

最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)

全面的価格賠償による共有物分割を認めました。ただし、当該案件では、取得者の資力が確定されていないとして高裁に差し戻しました。
「1 民法258条2項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和59年(オ)第805号同62年4月22日大法廷判決・民集41巻3号408頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。」
「2 次に、本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情か存するか否かをみるに、本件不動産は、現物分割をすることが不可能であるところ、○○にとってはこれが生活の本拠であったものであり、他方、上告人らは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はなく、本件不動産の分割方法として競売による分割を希望しているなど、前記一の事実関係等にかんがみると、本件不動産を○○の取得としたことが相当でないとはいえない。
しかしながら、前記のとおり、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるのは、これにより共有者間の実質的公平が害されない場合に限られるのであって、そのためには、賠償金の支払義務を負担する者にその支払能力があることを要するところ、原審で実施された鑑定の結果によれば、上告人らの持分の価格は合計550万円余であるが、原審は、○○にその支払能力があった事実を何ら確定していない。したがって、原審の認定した前記一の事実関係等をもってしては、いまだ本件について前記特段の事情の存在を認めることはできない。」

分割方法を検討される順番・要素

裁判所が行う共有物分割の方法には、上記のとおり、(1)現物分割(部分的価格賠償を含む)、(2)競売による分割、(3)全面的価格賠償、の3つがあります。
それでは、この3つの分割方法のうちどの分割方法が採用されるのか、その順番、考慮要素は何でしょうか?

(1)現物分割と(2)競売による分割

まず、「競売による分割」については「共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき」に採用されるとされていますので、(1)現物分割が優先されることになります。
ただし、「共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき」というのは価値判断を含む要件であり、判断が分かれることもあり得ます。例えば、分割後の土地が狭小であることを理由に現物分割を採用しなかった裁判例が多々存するところですが、「狭小」か否かは、建築基準法の規定や当該地区の現況などだけで決せられているのではなく、裁判官の価値判断により左右される可能性があります。
また、裁判所には裁量権が与えられており、すべての場合に当然に現物分割が第一次的な分割方法となるというわけではありません(東京地裁平成19年2月27日判決)。
当事者が分割方法について合意している場合、裁判所はその合意内容を採用するのが通常と思われます。東京地裁平成9年6月30日判決(平成5年(ワ)15504号)は、共有地の分割に当たり、当事者が裁判所の勧告に応じ、合意書を提出した場合において、これに基づいてされた鑑定の結果に基づき分割するのが適当であるとしています。

東京地裁平成19年2月27日判決(平成17年(ワ)8552号)

「裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているものの、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられるから、すべての場合に当然に現物分割が第一次的な分割方法となると解するのは相当でないというべきである。」

(3)全面的価格賠償と(1)現物分割・(2)競売による分割

全面的価格賠償が認められるためには上記の最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁)が、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる「特段の事情」が存することが必要であるとしています。
「特段の事情」

  1. 次の事情により特定の者に取得させるのが相当であると認められること
    • 当該共有物の性質及び形状
    • 共有関係の発生原因
    • 共有者の数及び持分の割合
    • 共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値
    • 分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無
  2. 価格が適正に評価されること
  3. 当該共有物を取得する者に支払能力があること

(3)全面的価格賠償と(1)現物分割、もしくは、(3)全面的価格賠償と(2)競売による分割のいずれが優先的に採用されるかについての決まりはありません。上記の「特段の事情」が認められれば、(3)全面的価格賠償が採用されるのです。(3)全面的価格賠償は次順位の分割方法に過ぎないとの見解もありますが、実務的には裁判所の広範な裁量に委ねられていると言ってよいでしょう。

この記事は弁護士が監修しています。

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