共有不動産の賃料増額・減額
賃貸している共有不動産の賃料を増額、減額する場合には、どのようにして決めることができるのでしょうか?
共有物の処分・変更と解されるのなら全員の同意が必要(民法251条)、共有物の管理と解されるのなら過半数の同意で決めることができ(民法252条本文)、保存行為と解されるのなら各共有者がすることができます(民法252条ただし書)
この点についての裁判例をご紹介します。
賃料減額
東京地裁平成14年7月16日判決は、一般に共有物の賃貸借契約において賃料変更の合意は、共有物の管理行為に該当し、賃貸人である共有者の過半数でこれをすることができるとしています(ただし、同事案ではサブリース契約であることを理由に共有者全員の同意が必要としています)。
東京地裁平成14年7月16日判決・金融法務事情1673号54頁
一般に共有物の賃貸借契約において賃料変更の合意は、共有物の管理行為に該当し、賃貸人である共有者の過半数でこれをすることができるものと解される。
しかしながら、民法602条所定の期間を超える賃貸借契約(長期賃貸借)を締結することは、共有物の管理行為ではなく処分行為であり、共有者全員の同意を要するものとされていること、本件のような大規模ビルを目的とするサブリース契約における賃貸借の合意においては、賃貸人である建物共有者の権利内容は賃料収受権のみであるといっても過言ではないところ、賃料の変更は共有者の権利に対して重大な影響を与えるものと考えられること、本件賃貸借契約においては、前記のとおり、賃貸借の中途解約権が契約上否定され、その反面、賃貸人は賃貸借存続期間中一定額の賃料を得ることを期待しうる地位にあること、本件賃貸借契約においては、賃料の変更につき、「賃料は、租税公課の大幅な改定、その他経済情勢に著しい変動があった場合、この契約締結後3年経過するごとに、地権者Ⅱ及び被告が協議の上改定できる。」と定められており、これは、賃料変更の合意については、賃貸人である共有者全員の同意を要するとの内容を示したものと解すべきこと等を考慮すると、本件賃貸借契約において、賃貸人、賃借人間の合意により賃料を変更する場合には、賃貸人である共有者の持分の過半数を有する者と賃借人の間における合意のみでは足りず、賃貸人である共有者全員の同意を得る必要があるものというべきである。
したがって、本件共有者(持分過半数)と被告との合意により賃料額を減額することはできない。
賃料増額
賃料増額は共有者全員の利益になるので保存行為として各共有者が行うことができそうですが、東京地裁平成28年5月25日判決・判例時報2340号74頁及び同控訴審・東京高裁平成28年10月19日判決・判例時報2340号72頁は、賃料増額請求権の行使は管理行為に該当するとして、持分2分の1を有する建物賃貸人が単独ではできないとしています。
東京地裁平成28年5月25日判決・判例時報2340号74頁
民法252条は、共有物の管理に関する事項は、変更を加える場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとし、例外的に、保存行為は、各共有者がすることができるものとしている。
これは、共有物の利用及び改良等の管理に関する行為については、持分の過半数を有する共有者らの意思により決することとしつつ、単に現状を維持するための行為であって、他の共有者に不利益を生じさせることが想定されない行為については、過半数の持分を有しない共有者であっても各自が行い得るとしているものである。ところで、借地借家法32条1項は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」と規定しているところ、同項の定める賃料増額請求権は、その行使によって賃貸借契約の重要な要素である賃料が一方的に変更されるものであることに照らすと、単に現状を維持するための保存行為とはいえず、共有物の利用等の管理行為に当たるというべきである。
確かに、賃料増額請求権の行使によって、賃料が適正賃料となることからすると、適正賃料から乖離していた賃料を適正賃料に是正し、他の共有者らにも適正な賃料を収受させることができるようにすることは、一見すると、他の共有者に不利益はなく、保存行為に該当し得るようにも見える。しかし、本来、賃料額は、賃貸人と賃借人の間の合意により決まるものである上、賃借人がいつまで賃借を希望するか等にも大きな影響を与えるものであり、それを変更する行為は、不動産をどのように利用して収益を上げるかに関わる問題であるから、賃料を一方的に増額することが常に他の共有者に不利益を生じさせないということはできない。なお、借地借家法32条1項は、賃料減額請求も認めているところ、賃料の減額請求は、他の共有者に不利益を生じさせることが明らかであって、現状を維持するための保存行為であると解することは困難であるが、賃料増額請求権の行使のみを保存行為と解し、同一の条文に規定されている賃料減額請求権の行使は管理行為であると解するのは相当でない。