位置指定道路の通行妨害と妨害排除

位置指定道路とは?

 道路位置指定とは、特定行政庁が建築基準法上の道としてその位置指定を行うことです(建築基準法42条1項5号)。道路位置指定を受けることにより、私道は建築基準法上の道路となり、当該私道に面している土地上に建物を建築することができるのです(同法43条)。そして、道路位置指定を受けた道路を「位置指定道路」といいます。

 また、同法42条2項では、「の章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で、特定行政庁の指定したもの」についても位置指定道路とされています。

 位置指定道路の上に建物や擁壁を建築することはできませんし、道路に突き出して建築、築造することもできません(同法44条)。違反すると、特定行政庁は工事の施工停止や建築物の除去等の是正措置を命じることができますし、罰則も定められています。

 第三者は、道路と指定されたことによる反射的利益として、当該位置指定道路を通行することができますが、通行権を有しているわけではありません。

位置指定道路の通行を通路所有者が妨害した場合

 それでは、位置指定道路の所有者Yが、当該道路を通行していたXの通行を妨害した場合、XはYに対し、その妨害行為を排除や将来の妨害行為の禁止を求めることができるのでしょう?

 この問題につき、最高裁平成5年11月26日判決、最高裁平成9年12月18日判決、最高裁平成12年1月27日判決がありますのでご紹介します。

 尚、以下では、位置指定道路の所有者をY、妨害排除を求める者をXと表記します。

最高裁平成5年11月26日判決

 判決は、次のように判示し、XのYに対するブロック塀の収去請求を棄却しました。

「Yは、建築基準法42条2項に規定する指定がされた本件道路指定土地内に同法44条1項に違反する建築物である本件ブロック塀を設置したものであるが、このことから直ちに、本件道路指定土地に隣接する土地の地上建物の所有者であるXに、本件ブロック塀の収去を求める私法上の権利があるということはできない。原審は、これを肯定する理由として、Xの人格権としての自由権が侵害されたとするが、前示事実関係によれば、本件ブロック塀の内側に位置するYの所有地のうち、Yが従前設置していた塀の内側の部分は、現実に道路として開設されておらず、Xが通行していたわけではないから、右部分については、自由に通行し得るという反射的利益自体が生じていないというべきであるし(最高裁昭和62年(オ)第741号平成3年4月19日第二小法廷判決・裁判集民事162号489頁参照)、また本件ブロック塀の設置により既存の通路の幅員が狭められた範囲はブロック二枚分の幅の程度にとどまり、本件ブロック塀の外側(南側)には公道に通ずる通路があるというのであるから、Xの日常生活に支障が生じたとはいえないことが明らかであり、本件ブロック塀が設置されたことによりXの人格的利益が侵害されたものとは解し難い。

 そうすると、同法42条2項に規定する指定がされた土地を通行等に利用することが、特定の私人にとっては、自由権(人格権)として民法上の保護に値するとする原審の判断の理論的当否について論ずるまでもなく、Xの人格権が侵害されたことを前提としてXの本訴請求のうち妨害排除請求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。」

最高裁平成91218日判決

 判決は、次のように判示し、XYに対する妨害排除請求を認めました。

「一 建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。

 けだし、道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというべきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。」

「三 右事実関係に基づいて検討する。

 Xらは、道路位置指定を受けて現実に道路として開設されている本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。また、本件土地の所有者であるYらは、Xらが本件土地を通行することを妨害し、かつ、将来もこれを妨害するおそれがあるものと解される。他方、右事実関係によっても、YらがXらの右通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできず、他に右特段の事情に係る主張立証はない。

 したがって、Xらは、Yらに対して、本件土地についての通行妨害行為の排除及び将来の通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。」

最高裁平成12127日判決

 判決は、次のように判示し、XYに対する妨害排除請求を棄却しました。

「建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである(最高裁平成8年(オ)第1361号同9年12月18日第一小法廷判決・民集51巻10号4241頁)。そして、このことは、同条2項の規定による指定を受け現実に開設されている道路の場合であっても、何ら異なるものではないと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、本件私道は、専ら徒歩又は二輪車による通行に供されてきた未舗装の道路であり、Yらの承諾を受けた請負業者が建築工事のため1年間本件私道を自動車で通行したことがあるほかには、自動車が通行したことはなく、Xらは、○○が死亡した昭和61年10月以降、その共有地を利用していないのみならず、右共有地を居住用としてではなく、単に賃貸駐車場として利用する目的で本件ポールの撤去を求めているにすぎないというのであるから、Xらが本件私道を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえない。」

コメント

 上記最高裁判決は、Xの請求が認められるための要件として次のものを挙げています。

①道路位置指定を受けていること

②道路が現実に開設されているころ

③通行が日常生活上不可欠であること

④敷地所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のないころ

 大阪高裁平成261219日判決も、上記基準に基づき、通行を妨害した土地所有Yに対し、①工作物等の撤去、②車止めブロック、立体ブロック及びポール等その他通行の妨害となる工作物等を設置の禁止を命じました。

参考

建築基準法421項本文及び5

 この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。

5号「 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整理法によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの」

建築基準法42条2項

 この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離2メートル(前項の規定により指定された区域内においては、3メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、2メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし、当該道がその中心線からの水平距離2メートル未満でがけ地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離4メートルの線をその道路の境界線とみなす。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

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