裁判上の和解と信頼関係破壊に関する最判昭和51.12.17

 不動産の賃貸借契約において、1ヶ月の賃料滞納があると直ちに契約を解除することができるとの条項があっても、通常、2~3ヶ月分の賃料滞納がないと、賃貸人と賃借人との間の信頼関係は未だ破壊されていないとして解除の効力が認められません。

 それでは、裁判上の和解において、「賃料の支払を1回でも怠ったときには、賃貸借契約は当然解除となり、賃借人Yは賃貸人Xに対し本件建物部分を直ちに明け渡す」旨の条項が存する場合、上記信頼関係破壊の理論は適用されず、直ちに契約解除が認められるのでしょうか。

 この問題につき最高裁昭和51年12月17日判決が判断していますのでご紹介します。

最高裁昭和51年12月17日判決

 判決は、まず、和解の趣旨につき一般論として次のように述べました。

「訴訟上の和解については、特別の事情のない限り、和解調書に記載された文言と異なる意味にその趣旨を解釈すべきものではないが、賃貸借契約については、それが当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにともなう別個の配慮を要するものがあると考えられる。すなわち、家屋の賃借人が賃料の支払を一か月分でも怠つたときは、賃貸借契約は当然解除となり、賃借人は賃貸人に対し直ちに右家屋を明け渡す旨を定めた訴訟上の和解条項は、和解成立に至るまでの経緯を考慮にいれても、いまだ右信頼関係が賃借人の賃料の支払遅滞を理由に解除の意思表示を要することなく契約が当然に解除されたものとみなすのを相当とする程度にまで破壊されたとはいえず、したがつて、契約の当然解除の効力を認めることが合理的とはいえないような特別の事情がある場合についてまで、右賃料の支払遅滞による契約の当然解除の効力を認めた趣旨の合意ではないと解するのが相当である。」

 そして、当該案件につき、次のように述べて解除の効力を認めませんでした。

「これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(1)賃借人Yは、昭和43年2月ころから賃貸人Xの所有する鉄筋コンクリート造六階建共同住宅のうちの一戸(以下「本件建物部分」という。)を賃借し、これに居住してきたが、賃貸人Xは、賃借人Yに賃料の支払遅滞があつたとして契約解除の意思表示をしたうえ、賃借人Yに対し本件建物部分の明渡訴訟(略)を提起したところ、右訴訟係属中の同44年9月4日、当事者間に訴訟上の和解が成立し、右和解において、賃借人Yは、賃貸人Xからあらためて本件建物部分を期間の定めなく、賃料月額1万3000円、毎月26日限り当月分を持参又は送金して支払うとの約定のもとに賃借したが、右和解条項には、賃料の支払を1回でも怠ったときには、賃貸借契約は当然解除となり、賃借人Yは賃貸人Xに対し本件建物部分を直ちに明け渡す旨の特約が付されていたこと、(2)賃借人Yは、右和解成立後賃貸人Xから賃料の受領を拒絶された昭和46年11月に至るまで、同年5月分の賃料を除いては毎月の賃料を約定の期日までに銀行振込の方法によって誠実に支払っていたこと、(3)右5月分の賃料はなんらかの手違いで期日までに支払われなかったが、賃借人Yはそのことに気づいていなかったこと、以上の事実が認められるというのであって、右事実関係のもとにおいては、本件和解成立に至るまでの経緯を考慮にいれても、賃借人Yの右賃料の支払遅滞により、当事者間の信頼関係が、解除の意思表示を要せず賃貸借契約が当然に解除されたものとみなすのを相当とする程度にまで破壊されたとはいえず、したがって本件和解条項に基づく契約の当然解除の効力を認めることが合理的とはいえない特別の事情のある場合にあたると解するのが相当である。それゆえ、本件和解条項に基づき賃借人Yの昭和46年5月分賃料の支払遅滞によって本件建物部分賃貸借契約が当然に解除されたものとは認められず、これと結論を同じくする原審の判断は正当として是認することができ、また、その判断の過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。」

コメント

 裁判上の和解には強い効力が認められるのが通常ですが、賃貸借契約の解除については、信頼関係破壊の理論が適用されるとされました。

 裁判上の和解の際には上記最高裁判例にも留意してください。

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(弁護士 井上元)

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