空室となった居室の賃料相当額の損害賠償責任を負うとした東京高判平成25.10.10

 マンションA室の賃借人Yの責任によりマンションB室の賃借人が退去したことにより、賃借人YはマンションB室の賃貸人Xが被った損害の賠償責任を負うとした東京高裁平成25年10月10日判決をご紹介します。

事案の概要

 マンションA室の賃借人Yが犬(ドーベルマン)を散歩に連れ出したところ、同じマンションのB室の賃借人Bに咬みつくという事故を起こしたため、賃借人BがマンションB室を退去し、しばらくの間、空室の状態となりました。

 そこで、空室となったB室の賃貸人Xは賃借人Yに対して次の請求を行いました。

①マンションB室の賃貸人Xが賃借人Bに免除した2ヶ月分の解約違約金350万円

②空室が続いた17ヶ月分の賃料相当損害金

原審・東京地裁平成25年5月14日判決

 本件事故の被害者は賃借人Bであり、賃貸人Xの損害は間接損害であって、①の賃借人Bに免除した2ヶ月分の解約違約金350万円の損害賠償は認めることができるが、②の空室が続いた17ヶ月分の賃料相当損害金の損害賠償は認めることができないとしました。

東京高裁平成25年10月10日判決

 控訴審の東京高裁平成25年10月10日判決は次のように述べて賃借人Yに対し、①の賃借人Bに免除した2ヶ月分の解約違約金350万円に加え、②の空室が続いた17ヶ月分の賃料相当損害金のうち9ヶ月分につき損害賠償を命じました。

「本件マンションの建物使用細則は、居室のみで飼育できる小動物を除き、動物を飼育することを禁止していることが認められる。 この禁止規定の目的は、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を確保し、快適な居住環境を保持するという本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の共同の利益を守ることにあり、合理性が認められる。この禁止規定に違反した結果この共同の利益が損なわれることは、本件マンションに居住する価値が低下することにつながるから、専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益も損なうことになると解するのが相当である。特に本件マンションは、7戸という特定少数の入居者が外部から隔離された環境で生活する高級マンションであり、快適な居住環境が通常の居宅以上に重視されているのであって、このことが月額賃料の額にも反映されていると見るのが相当である。したがって、本件マンションの居住者は、この禁止規定に違反してはならず、これに違反して動物を飼育する場合には、本件マンションの居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全等を損なうことがないように万全の注意を払う必要があり、飼育する動物が専有部分や共用部分の一部を毀損するなど、財産的価値を損なう行為をして専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益を侵害したときは、民法718条1項による損害賠償責任を負うほか、上記注意義務に違反したと認められるときは、同法709条による損害賠償責任も免れず、いずれにしても専有部分の区分所有者その他の権利者が財産上の利益に関して受けた損害を賠償する責任があるというべきである。そして、動物の飼育者が上記注意義務に違反したために飼育する動物が本件マンションの共用部分において居住者に対して咬傷事故等を惹起し、被害者が恐怖心等により心理的に本件マンションの居室に居住することが困難になって賃貸借契約を解約して退去したときは、本件マンションの区分所有者、居住者その他の関係者の生命、身体、財産の安全を確保し、快適な居住環境を保持するという共同の利益が侵害されたといわざるを得ず、これによって発生する損害について不法行為による損害賠償責任を免れないところ、これを被害者に居室を賃貸していた賃貸人についていうならば、賃貸借契約解約に伴い次の賃貸借契約が締結されるまでの間通常生じ得る空白期間だけでなく、その影響が更に及び、次の賃貸借契約が締結されるまで相当の期間を要することとなり得ることを否定することはできないから、飼育する動物が専有部分や共用部分の一部を毀損するなど、財産的価値を損なう行為をして専有部分の区分所有者その他の権利者が有する財産上の利益を侵害したときと同様に、相当因果関係が認められる範囲で損害を賠償する責任があるというべきである。」

コメント

 本件は、著名人が当事者となった事件として注目を浴びた事件ですが、賃貸人Xの損害は間接損害であるとして認めなかった原審に対し、控訴審は直接損害として認めたものであり、理論的にも興味深いものです。

(弁護士 井上元)

この記事は弁護士が監修しています。

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